COPMニュース 第11号

発行日:2003.6.23


梅雨に入って湿っぽい日が続きます。先日,石原裕次郎さんの17回忌のテレビ番組を見ました。渡哲也さんが,石原プロの運営について「裕次郎さんならどうしたかな」と考えて行っていると言ってました。出演している人たちは,それぞれに裕次郎さんのスピリチュアリティをしっかり感じているんだなあと思いました。「スピリチュアリティは決定と統制controlの源泉」(「作業療法の視点」p.50)という説明がよくわかります。裕次郎さんのようなスターのスピリチュアリティは,大勢の人たちが感じられるのかもしれません。でも,中島みゆきさんの「地上の星」が空前の大ヒットってことは,みんな誰でも小さな光を放って暮らしているスターだって考えをこっそりもっているんだと思います。作業療法士は,誰のどんな小さな光でも,それを感じ,その光を大事にしていけたらいいなあ。その人らしさが光る作業を行えるように援助するということを通 して。


1月に米子で,2月に熊本で,3月に長崎でCOPMについて話しました。
質問と回答です。


Q.クライエントとクライアントは違うのでしょうか。

A.同じです。COPMを翻訳した頃,保健医療の対象者をpatientではなくclientと呼ぼうという北米地域の保健医療界の動きを反映させようと思い,すでに外来語として定着している「クライアント」とは区別する必要があると考えました。ビジネス界での客(クライアント)とサービス提供者との関係と,医療における患者―治療者関係は,質が違うと考えていたからです。今から思えば,当時の私は,医学知識をほとんど持たず,病んで傷ついた心をもち,受け身で耐えるpatientを,自律性をもち自己決定の結果 の責任を引き受けるclientと呼びかえることの意味を,本当にはわかっていなかったのです。
Mary Reillyが20年前に書いた記事(The importance of the client versus patient issue for occupational therapy. AJOT 38, 404-406, 1984)を読むと,「patientからclientへの移行はOT史上最大の変換期と自覚すべき」という強い論調に胸を打たれます。その上で1988年原著の「作業療法実践のための6つの理論」(協同医書,1995年刊)を読むと,当時のReillyの期待と失望,OT界との隔絶という極端な行動の意図が身に染みます。
昨年になって,ようやくアメリカOT協会は,医療分野だけでなく,新しい領域で活躍するための正式な声明(Occupational therapy practice framework: Domain and process. AJOT 56, 609-639, 2002.)を準備しました。作業の定義を初めとして,カナダOT協会の「作業療法の視点」から多くの内容が引用されています。ビジネス界でもどこででも,クライエントとサービス提供者間には,知識や役割の違いがあります。そして行われるサービスの目的はクライエントの望むことを達成し,満足をもたらすことであるということに変わりはありません。OTによって利益を得る人たちが,様々な所にいます。


Q.COPMをすることは,今までの作業療法と同じに思えますが,どこか違うのでしょうか。

A.私も最初は同じだと思っていました。私の場合,学校で教わった通り,OTの初回評価では必ず「困っていることは何ですか」と聞いていました。そして10年以上たってCOPMを知り,特段珍しいものとも思わず,「したいことは何ですか」と聞きました。違いは時間をかけて,いろいろ聞くことと,点数を言ってもらうことです。予想通 りの答えもありますが,へえーと思う答えも多いです。最初に気づいたのは,新人OTの頃,ある人が「息子に嫁が来ないことが困る」と言ったのを思い出したことです。ほとんどの人は,セルフケアや身体症状を困ることだと言いました。それは,私の白衣やOT室の物品や他の患者がしていることから,こちらに合わせた回答だったのです。これはクライエント中心ではありませんでした。クライエントの生活(今の,あるいは将来の)の中の作業に焦点を当て続けながら会話を展開していくことの難しさを実感しながら,回数を重ねる内に,お互いが慣れてきます。COPMを通 して,クライエントとOTは,お互いが何に興味をもち,何をするのが得意な人なのかを知り続けることができます。新人OTの頃の私は,息子に嫁が来ないという言葉を聞いて,「知的機能の評価が必要だ」と思いました。今は「家事作業や社会的環境について調べる必要がある」と思います。COPMはOTが従来は備考欄に書いていたことを,より正式に記録する方法かもしれません。COPMの実施によって,OT自身が違いを感じるかもしれません。


Q.AMPSって何ですか。COPMとはどんな関係にあるのですか。

A.AMPSは運動とプロセス(処理という訳もある)技能評価(Assessment of Motor and Process Skills)です。「ウィラード&スパックマンのOT」最新版の評価の章の冒頭に「(OTの)評価とは作業的存在として人を理解することに焦点を当てた協働的プロセスである」とあります(Cohn E et al: Introduction of Evaluation and Interview: Overview of Evaluation. In Crepeau EB et al (Ed): Willard and Spackmanユs Occupational Therapy 10th ed. pp. 279-285. Lippincott Williams & Wilkins, 2003.)。AMPSもCOPMも,この定義にぴったりの評価法です。


その他の類似点は以下の通り。

1. 作業に焦点を当てたクライエント中心のOT実践のために使う。
2. 作業遂行の評価法であり、AMPSでは人と環境と課題、COPMでは人と環境と作業の交流の結果 、作業遂行が生じると考えている。
3. 理論や概念モデルがある。COPMはカナダ作業遂行モデル,AMPSはAMPSの概念モデル(当初は人間作業モデル)。
4. OTプロセスの中での位置づけを明記している。
5. 幅広い年齢(COPMは7歳以上,AMPSは3歳以上)や、すべての障害のクライエントに使える。
6. クライエント個人の文脈で実施するから,どの文化でも使える可能性がある。
7. 1980年代に開発が始まり,1990年代にある程度完成した。


一方,異なる点は,

1. 開発の経緯:COPMはOT協会(カナダ)のOTの質の保証を考える活動から始まり,AMPSは大学(アメリカ)での研究から始まった。
2. 評価者の資格:COPMはマニュアルを読めば評価できるが,AMPSは5日間の講習会に出て,その後10人分のデータとって評価者として自分の換算コードを入手する必要がある。
3. 評価の形式:COPMは面接,スコアは手計算できる。AMPSは観察,スコアはコンピュータソフトで計算される。
4. スコアの比較:COPMは個別測定なので本人の前後の比較はできるが,他者との比較はできない。AMPSスコアは間隔尺度で他者との比較もできる。
5. 作業遂行の捉え方:COPMでは,作業遂行は行為者個人が定義するものと考えているので,本人がその作業をどう捉えるか知らないことには作業遂行を評価できないという前提がある。AMPSでは,作業遂行は観察できるもので,それぞれの文化や社会には受け入れられる範囲があり,上手下手がある(一元化された尺度を作れる)という前提がある。
6. OTプロセス:AMPSマニュアルで紹介されているOT介入プロセスモデルは,トップダウン(作業遂行をトップ,要素的能力をボトムとした時の)アプローチ。COPMマニュアルにある作業遂行プロセスモデルは,COPMで作業の問題を特定した後に,理論やアプローチを選ぶ段階があり、トップダウンになるとは限らない。

(以上「AMPS事例集」2003より引用)


EBOT(Evidence-Based Occupational Therapy)を行うためには,なぜOTでそのようなことをするのかを,クライエントや他職種にエビデンスを示して説明する必要があります。その時に,COPMやAMPSの結果 が説得力をもつ場合があります。OTにとって必要な情報を適切に表現するために,COPMもAMPSも活用できるというわけです。


***インターネット関連サイトのご案内***
日本AMPS研究会   http://ampsjpn.hp.infoseek.co.jp/