COPMニュース 第2号

発行日:1998.11.27


めっきり寒くなりましたが、お元気ですか。 私たちは、COPMの再テスト信頼性を調べ始めています。市の機能訓練教室参加者を対象に2週間以内に2回COPMを実施しています。現在10人分のデータが集まり、相関は重要度0.66、遂行度0.77、満足度0.85です(カナダの結果 はマニュアルp.35)。評定が大きく違う時はそれなりの理由があったりして、予想よりも一致度が高いという印象です。
点数での回答が不適切だと思われるクライエントに会いました。この方は、すべてに感謝して暮らしているので、自分のしていることはすべて重要で、自分なりにはうまくやっていて、非常に満足しているのです。だから全部が10になります。この方の信念は感謝と倹約だと思われ、魂(spirituality)に相当する部分がCOPMを通してわかりました。


では、質問と回答です。


Q.再評価の際に、初回評価のスコアをクライエントに見せてもいいですか。

A.見せる必要はないし、見せない方が良いと思います。ただ見せることでクライエントが応えやすくなるかもしれませんが、COPMは初めから応えやすい評価方法です。(Lawさんからの回答の要約)


Q.クライエントが実現不可能な作業遂行を取り上げたらどうしたらいいでしょう。

A.マニュアルp.45-46に回答があります。COPMは全体の作業療法過程の初めに使い、これからクライエントと作業療法士がパートナーとしてやっていくための出発点になるだけです。


Q.COPMでクライエントにとっての問題がわかっても実際の作業療法は今まで通りするしかないということがあります。この場合COPMをする意味がないですね。

A.COPMをすることで新しい作業療法プログラムが展開されることもありますが、COPMは従来のプログラムの意味づけをするための情報になるだけのこともあります。


Q.クライエントの望みがどんどん高くなり、対応に困ってしまいます。

A.COPMはクライエント中心です。クライエント中心とは、サービスを受ける人を尊重し、その人とパートナーになるという理念にもとづいています(Law, M. Ed.: Client- centered Occupational Therapy. Slack, Thorofare, 1998)。従って、クライエントのニードと作業療法士にできるサービスを適合させるプロセスをクライエントと共に歩みましょう。
また、カナダ作業療法士協会の新しいガイドライン「Enabling Occupation: An Occupational Therapy Perspective」(1997)には、クライエント自身が、自らの環境の中で役立つあるいは意味のある作業を選んだり、生活の中に構造化したり、遂行したりできるようになるために、コミュニティや社会に働きかける作業療法士の役割について説明しています。COPMを使うことによってクライエントが現実に暮らす地域のさまざまな問題に対して関心をもたざるを得なくなるのです。


Q.RAなど障害をもちながらもセルフケアも仕事もレジャーも自立しているクライエントにCOPMを実施するときは、どのように導入したらよいでしょう。

A.マニュアルには「したいこと、する必要のあること、期待されていること」(p.43)「困難なこと、障壁になること」「中断した役割や活動」「重要なこと」「何が簡単で何が難しいか」(p.54-62)というキーワードが書かれています。
私はふつうは「もっと上手にできたらいいと思っていることは何ですか」「○○は問題なくできますか」と聞きます。何もないという方には「余裕があったらやってみたいことはありますか」「手伝ってもらっていることの中で、自分でやってみたいことはありますか」「生活の中で大事だと思うことを教えてください」などと言っています。


Q.点数で答えることが難しいと思います。たとえば、「テレビを見る」の遂行度を聞くときに「どのくらい上手に見れますか」はおかしいです。

A.「上手くできますか」と聞くにはふさわしくない作業遂行の問題はいくつかあります。遂行度は現在の遂行に関する自己評価(p.49)なので、「思ったとおりにできますか」とかテレビなら「目や耳に問題があってうまく見ることができないことはありませんか」とか「問題なくテレビをみることができますか」と聞いています。
また、重要度を聞く順番はクライエントにとって答え易そうな作業遂行から聞いています。「○○は非常に重要ですか? それほどでもない? 全然重要でないなら1ですけど・・・5か6ぐらいかしら。どっちにしましょう。」そこで、クライエントは7と答えたりします。


COPMのワークブックの巻末にインタビュー技術について書かれています。Active Listningのポイントはクライエントの言いたいことを明確にするために言い換えることだとしています。クライエントの言うことを判断するのでなく理解するのです。具体的には、・繰り返しrestatement ・反照reflection ・明確化clarification です。

 

  ・繰り返しの例  Cl:何もできない。いらいらする。 Th:いらいらするのは、自分では何もできないからですね。
  ・反照(自分の言葉で言い換え)の例  Cl:私はもうダメだ。自分じゃ何もできない。 Th:前にしていたことができなくなって、悔しいと思って(怒りや挫折を感じて)いるんですね。
  ・明確化(要約と簡潔にする)の例  Cl:私は最初に作業療法に来たとき服の着方を習ったり、家に帰ってから私が前にしていたことができるようになるのかと思ってたのよ。でも見てよ。2週間前と全然変わってないじゃない。相変わらず何にもできないわ。 Th:最初に作業療法に来たときにはもっと良くなると思っていたのに、思ったより時間がかかりそうでがっかりしているのですね。

その他のコミュニケーション技術には「私は」を使う方法(”I” statements)があります。セラピストが自分がどう感じたかをクライエントに伝えるのです。「それが辛くさせてるのですね」でなく「辛いですね」と言い「あなたの言い方がわからない」でなく「私わからなくなりました」と言います。日本語では主語を言わないことが多いのでこの例ではよくわかりませんが、要はセラピスト自身がどう思うかを伝えることです。これは自分を全面 に出すのでリスクを伴いますが、クライエントとの対等な関係を発展させる上で役立つそうです。

 


授業で「作業遂行のカナダモデルとCOPM」を扱いました。学生同士で自分たちの生活を振り返ってCOPMを行いました。難しかったのは作業遂行を説明したり、作業遂行の問題に名前を付けることでした。「ぶらぶらする」という作業遂行をあげた学生がいました。これは散歩でも買い物でもなく、これといった目的もなく休日などに一人で出かけることだそうです。ひょっこり誰かに会ったりすると結構嬉しいんだそうです。これが本人にとっては何年も前から行っている大事な作業遂行だそうです。人の生活を構成する、その人にとって大事な作業を考えていくのは興味深いなと、私はまたまた思いました。

英語版のCOPMビデオとワークブックをお貸し致します。ご希望の方はお知らせください。3月19、20日に広島大学でカナダの作業療法実践に関するワークショップがあります。問合先はFAX082-257-5440宮前さんです。
ご意見や質問がありましたら、ご遠慮なくお知らせください。今年2月にCOPMを使われている方にアンケート調査をしたいと思っています。その時はよろしくお願いします。