COPMニュース 第8号

発行日:2002.1.11


2002年あけましておめでとうございます。
大学教育出版からの年賀状にカナダ作業療法士協会のガイドライン「作業療法の視点:作業ができるということ」の残部数100冊(印刷したのは1000冊)と書いてありました。原著は今年6月に改訂予定だそうなので、それを見てから増刷するかどうか決めようと思っています。


ストックホルムで開かれるWFOTで6/27にCOPMの演題を発表します。
要旨を書きます。「COPMに対する日本人使用者の見解」COPMの邦訳は1998年に出版された。日本の作業療法士はCOPMに対し肯定的な感想をもってはいるものの、文化的考察の不足や専門職の権威(責任)といった点を批判している。本研究はCOPM使用者がどのようにCOPMを捉えているかを明らかにすることを目的に、24の事例報告を含む33文献を対象に質的分析を行った。
その結果

1)COPMの準備
2)作業遂行ニードの発見
3)クライエントと作業療法士間の協働
4)追加評価と治療

という4テーマが浮上した。
作業療法士はCOPMを実施するために十分な時間を捻出する必要があり、面接技能を学ばなければならない。COPMはインフォーマルな評価では知り得ない新たな問題を明らかにすることができる。クライエントの関心が作業遂行に向くようになる。クライエントは自らの問題を認め自分のリハビリテー ションプロセスに参加するようになる。しかしCOPMを使うことだけで十分だということはない。自分の問題を明らかにできないクライエントもいるし、COPMによってすべての問題が特定されるわけでもない。COPMが開始点だということである。

文献の著者の皆さんありがとうございました。


今年の日本作業療法学会は、5/29夕方から6/1まで広島市で開催されます。5/30に上村智子さんがセミナー作業療法実践の枠組みで「カナダ作業遂行モデル:作業遂行プロセスモデルを用いた実践」という講演をします。6/1には私と原田千佳子さんがセミナー「COPM:実施体験と活用の事例報告」を行います。


COPMを使った作業療法士から様々な経験を聞くことがあります。自分がこれまでいかにimpairmentに偏重した見方をしてきたかということが自覚できたと言った人は、COPMの実践や「作業療法の視点」を読んで作業療法の素晴らしさとこれからの課題の多さを痛感したと言います。また、「クライエントにとって意味のある作業」を実感した経験を話してくれた人もいます。クライエントがCOPMの時にふと語った「ピアノが弾きたい」という言葉から、キーボード、体育館のグランドピアノの演奏を経て、以前レッスンに通っていた恩師の家を訪問する旅を経験し、自分らしく生きる方向を見出したということです。作業療法士がしたことはクライエントに「したいこと」を聞いて楽器の手配をし、その演奏に素直に感心したことです。人と作業と環境との関係が上手く調和すると、穏やかで平和な生活がやってくるようです。


クライエント中心の作業療法というのは、作業療法士とクライエントがパートナーになって、目標に向かって共に取り組むということですが、最初から上手くいくことは滅多にありません。お互いに嫌ではない関係を続けるうちに、相手のことがだんだんわかってくるという感じです。「共通理解の地平」を一緒に築く道のりです(Zemke & Clark:作業科学,三輪書店, pp.407-430, OT学会では6/1Clark氏の講演「現象学と作業療法」があります)。理解といっても言葉による理解だけではなく、作業を通しての経験が教えてくれる理解が貴重だと感じています。作業に取り組む姿勢、表情、続け具合、作品など作業遂行は、理解するための多くの情報を与えてくれます。資格を得るための専門学校受験に向けてクライエントと作業療法士が、資料収集や見学、受験勉強に取り組んだけれど結果は不合格。その時クライエントとその家族は、作業療法士がどんなにがっかりしているだろうと話し、受験で頑張った経験はきっと役に立つと言ったそうです。失敗は、次の目標を定めそれに向かうための貴重な経験として、クライエントと作業療法士の人生に刻み込まれました。挑戦もリスクもない人生はつまらないものです。へこたれることがあっても気を取り直してやってみる生活を応援したいです。


ICIDH(国際障害分類)が改定され、ICF(生活機能と障害と健康の国際分類)になりました( http://www3.who.int/icf/icftemplate.cfm )。カナダでは1980年にICIDHが発表された6年後に障害は環境要因によって左右されるというモデルを示し、CMOPもその流れを汲んでいます(Brintnell ES: 国際障害分類-カナダでの適用と研究. OTジャーナル35(12)1211-1214,2001)。今回の改定では最後の段階で活動と参加の項目が統合されました。これは作業の説明には絶好の機会だと思います。人は家庭でも社会でも常に環境のなかに存在し、多くの時間何らかの作業(活動・参加)をしています。環境要因をしっかり考えると、作業をできないようにしている社会の仕組みや人々に目が向きます。作業療法士はこれまで個人の健康を見てきたけれど、社会的ビジョンをもつべきだと言ったカナダのElizabeth Townsedさんと、ヘルスプロモーションなど作業療法の公衆衛生的役割を主張する Ann Wilcockさんが6/23WFOTでOccupational Justiceと題したワークショップを開きます。地域で活躍する作業療法士が共有できる理想がディスカッションできそうだと期待しています。


では、質問と回答を少し。


Q.カナダ作業遂行モデル(CMOP)はOT説明モデルというイメージです。還元主義的でパターナリズムだった従来の医療・福祉モデルから脱却して、真のOT実践を他者に説明するためにはとても良い。でも対象者の各要因を見つけることはできても要因間の関連性を説明することは難しいです。

A.人と作業と環境が常に影響を与え合うというダイナミックな関係を表現するためにCMOPの図を3次元にしたり、人生を螺旋の管にして、どこを切ってもCMOPの図になるようにして、時々刻々と金太郎飴の表情が変わるかのように示そうとしていますが・・・イメージできます?


Q.COPMを使ってみて高齢者の自己判断は、不思議だなと思いました。こちらの聞き方の未熟さもあるのでしょうが、遂行度、満足度が、不思議なあるいは理不尽な変化をしました。また、訓練的なプログラムにまじめな優等生が、著しく生活意欲のない人だったことが分かったりしました。

A..「理不尽な変化」と思うのは作業療法士の見解です。COPMはクライエントの捉え方を知る方法なので、COPMでの変化の理由を考える必要があります。同様にクライエントも病気を治してもらおうと思って来たのに、患者に何をしたいか聞くとは、なんて治療者だ、理不尽な所へ来てしまった、と思っているかもしれません。作業療法士は作業療法が何をする所か、どんな援助ができるかを、相手の理解を確認しながら言葉と態度で説明し続ける必要があります。そしてお互いが理解を深め合い「共通理解の地平」に立つことができるのです。病院で全く問題のない患者が退院後に悲惨な状況を迎えるという話は時々聞きます。一方、病院では職員に逆らってばかりの患者が、たくましく自律生活を送っている例も珍しくありません。人は皆自分の人生を進める舵をもっています。強い舵取りで生きている人もいれば、周囲の風に逆らわずに進んでいる人もいます。その人らしさや、こうありたいと望む方向に進んでいけるといいですね。