あゆみ(1995-1999)

改めて作業療法の原点を思う変革期の精神医療、現状を見据えて診療報酬請求基準の見直しをこれからの協会/新世紀へむけて


1995-1999

医療からのアプローチでは得られない感動
「さをり織り」の城英二先生は、閉鎖病棟の患者さんと取り組んだファッションショーの事をこう伝えて来られました。

本会第32回大会での講演後の事務局へのお手紙よリ


改めて作業療法の原点を思う

ピネルの事跡は今はもう2世紀も前のこととなり、精神保健福祉法の時代。全国精神障害者家族会連合会、精神障害者社会復帰促進センターの手で栃木県に保養所と授産施設を一体化した“ハートピアきつれ川”が誕生し、開設間もない同施設で平成8年(1996)本会32回大会が開かれました。その析り「さをり織り」と障害者の出会いを話された城先生が、その後のお便りで「医療からのアプローチからは得られない感動」と伝えてこられた障害者とともに取り組んだ体験の中に、作業療法の本質があるように思いました。一看護人の行いを見て精神医ピネルがこれだと感じた点、そこに作業療法の原点があると言われますが、作業療法に止まらず精神医療の立脚点でもあると言えるのではないでしょうか。


変革期の精神医療、現状を見据えて

この5年間、精神科デイケアの診療報酬単価の改訂が一段と進み、SST、ナイトケア、デイナイトケア、訪問看護など医療の場の点数化か図られ、診療所も増え、デイケアを併設する例も少なからず見られます。従来の共同作業所に加えグループホームや生活支援センターも展開しはじめ、入院中心医療から在宅の状態で生活と療養を継続してゆこうとする人達を支える仕組みが具体的になりつつあります。しかし地域による偏りがあり、それも一因ですが、なお長期にわたる入院生活を続ける患者さんを多数擁する病院の存在が依然としてあります。
病院内での作業療法の現場には、長期入院の患者さんに関する課題と、短期間で入院生活から脱してゆく人達や入退院を反復する人達の課題がクローズアップされてきています。技法の開発および理論化とともに病院の中だけで閉塞的に考えず、地域医療、生活支援の仕組みや保健所、職業リハビリテーションなど専門機関との連携を視野に置いた展開が求められています。
また会の研修会では、在宅生活にある当事者から、その生活や考えや思いを伺うよう努めてきました。多様なライフスタイルとそれぞれの思いを知る事が出来ました。これを一つの手掛かりとして、当事者それぞれの今と今後、私達が関わる意味などを相互に伝え合い論議してゆくことも大切にしていきたいと考えます。


何やっても「遅い!」、顔見りや「薬飲んだか」「顔洗ったか」、家に居れば「布団くらいたためよ」「時間どおりご飯食べなさい」…腹減ったら食えばいい。何でも親の寸法、健常者の寸法で計っているわけです…

本会第34回大会 (1998)小坂功氏の講演より

診療報酬請求基準の見直しを

医療経済という言葉が日常実践に次第に濃い影を落してきています。医療保険制度の見直しや経済情勢から数年間診療報酬単価の改訂や施設基準の見直しもなく、対象者数の増加が求められる場合もあって、担当者の負担や悩みは増しています。本会では日本作業療法上協会との関係を保ちつつこの課題に対処する方針をたてました。
また診療報酬請求に関する監査では、実践態様の修正を要する指導もなされるようになってきました。指導の意図や本質の理解に努めるとともに、実践の意図も明確にして理解を得るよう努める必要があります。
作業療法の担い手の実態を把握するため、施設基準にある助手についての基本調査を、本会は平成9年度に行いました。多様な期待のもと助手の配置がみられ、作業療法士との関係性のみで一律に論じ切れない側面があることがわかりました。多様なマンパワーの連携による共同実践としての作業療法、診療報酬施設基準上の見直しにどう反映してゆくか協会にとっての課題です。


これからの協会/新世紀へむけて

作業療法士の養成も次第に大学教育に以降、学校も増加し、精神科作業療法の領域で仕事をする人達が増えて来ました。本会の構成員も作業療法士の比重が高くなってきています。多様な職種の人達で精神科リハビリテーションに関し交流し研究し論議する場も、本会とは別に更に広範囲にあるいはテーマ別に各種の団体が生まれ集会が開かれるようになって来ました。
こうした背景の中で、本会は「今日なお本会の存在意義は」との問い掛けを、平成10年度に会員にむけて行いました。実践に即した交流と研鑽の場としての役割を評価する意見が多く新世紀へむけて会の運営基盤の見直しをして臨むことになりました。
会員の意思と協力による会の運営がどれだけ現実化されるかが、今後の会の存否の鍵となります。そういう時期になりました。


本会第35回大会(1999)にて報告