COPMニュース 第10号

発行日:2003.1.6


2003年、あけましておめでとうございます。
昨年末、同僚の上村智子さんがデンマークで5か月、スウェーデンで1か月の研修生活を終えて帰国したので、インタビューしてみました。


Q.COPMを使っていましたか。

A.「デンマークのBrain Damage Centerでは、OT部門としてCOPMデンマーク語版を使っていました。重度障害をもつクライエントへの COPM利用は難しいけれど、モデルは使えると言ってました。スウェーデンでもデンマークでもカナダモデルへの関心は高かったです。 スウェーデンのカロリンスカ研究所では講師に招かれていたElizabeth Townsendさんに会いました。」


Q.日本と比べて違うと思ったところは?

A.「人間関係がオープンで、みんなディスカッションが大好きです。10時と3時のおやつの時間と、お昼には、スタッフルームに集まっ て、おしゃべりします。スタッフルームには電子レンジとコーヒーメーカーと食器洗い機があります。みんなでいろいろ言い合い、助け合ったりしながら、進んで行こうっていう感じ。Solidarityの精神を感じます。どこの誰が、何に関心をもって取り組んでいるか、 どこで誰が講演するかなどの情報がとてもオープンです。」


Q.日本と同じだと思ったところは?

A.「日本は緑茶、イギリスは紅茶、デンマークはコーヒーを入れることで、高次脳機能を評価しているという点は面 白いと思いました。 また、厳しい経済情勢から、保健医療にもコスト削減の圧力がかかっているところも似ています。OTは今は仕事ができているけれど、これから生き残るための策が必要だと認識しているようです。」


Q.これからOTはどのように進んでいくとよいと思いますか?

A.「障害がある人が地域で生活するために、OTができることはたくさんあります。OTは技術もあるし、活躍の場も持っています。自信をもって狭い職域にとらわれずに、関連職種と手を組んで、保健医療専門職の一員として、どんどん活動していけばよいと思います。」


Q.6か月の海外経験で何か変わりましたか。

A.「自分が何をしたいかを伝える機会を多く与えられたことで、自分は何をしたいかがはっきりしました。自分のしたいことを伝えられたのは、伝えて急がなければ実現するという信念があったからだと思います。滞在中には時間はかかっても、伝えたことについて、周りの人がいろいろ取り計らってくれました。」


「自分が何をしたいか伝える機会」COPMニュースにふさわしい言葉ですね。国や地域を越えてOTのネットワークが広がり、交流が進 むといいです。


COPM開発代表者であるMary Lawさんの最近の著書を紹介します。
Measuring Occupational Performance: Supporting Best Practice in Occupational Therapy (SLACK, 2001)
作業遂行上での変化を起こすOTを実践したら、その成果を測定する必要があります。OTの成果 は、運動や認知機能など、環境と切り離した人間の変化で示さなければならない、と考えている人がまだまだ多いのが現状ですが、本書では、人と環境と作業の相互交流の結果 として生じる作業遂行の性質を踏まえて、作業遂行を評価するための手段を示しています。
以下の5つがクライエント中心の作業遂行評価の方法として紹介されています。
Occupational Questionnaire (Smith, Kielhofner, et al, 1986)、 Satisfaction with Performance Scaled Questionnaire (Yerxa, et al, 1988)、 Occupational Performance History Interview (Kielhofner et al, 1988)、 COPM (Law et al, 1991,1994,1998)、 Occupational Self-Assessment (Baron, Kielhofner, et al, 1998)。


Occupation-Based Practice: Fostering Performance and Participation (SLACK, 2002)
クライエント中心、作業中心の実践ができるように成長し協働できるようになっていくことを目標に書かれた本です。ワークブック形 式で、設問に答えるなど、自分で書き込みながら読み進めます。自分の考えや実践は、クライエント中心か、作業に焦点を当てているか、を振り返りながら学習していくと、OTのアイデンティティが強化され、作業中心の実践をするための技能と知識が得られ、作業と社会参加に焦点を当てるようになるんだそうです。また、成人学習モデルについても学べます。成人学習は、「Enabling Occupation (邦訳:作業療法の視点)」のワークブックでも強調されています。


Evidence Based Rehabilitation: A Guide to Practice (SLACK, 2002)
自分の実践の背後にある信念に気付くこと、臨床での意志決定のプロセスに気付くこと、そして意志決定にどのように根拠 (evidence)を使うかが記されています。もちろん意志決定には、研究結果や権威者の言葉といった根拠だけではなく、理論上の期待やクライエントの期待、作業療法士の経験、環境的制約や利便性、倫理的配慮が加味されます。リハビリテーション関連領域の学生のために執筆された本ですが、OTの事例が豊富なので、来年から研究法の教科書に使おうと思っています。


9月に東京都立保健科学大学で、12月に埼玉県作業療法士会で話しました。質問と回答です。


Q.クライエントの本当の気持ちを聞けているのかどうか不安です。

A.「私たちには、評価とか測定では静的な「本当の」事実を記録するものだという観念が染み付いています。これでは移り変わる人の気持ちなんて測れない、ということになります。でも実際は、体温も血圧も体重も変わるのに測っているし、ヤマが外れた試験の結果 で人生が決まったりしています。「本当の気持ちを聞きたい」という態度は必要ですが、その時聞いたことが本当かどうかは、それほど重要ではありません。その時聞いたところから、その後クライエントとあなたがどう進むかが重要です。COPMはイベントで終わるのではなく、後に続くプロセスの始まりです。COPMを繰り返し行う中で、何が本当かというより、何が起こりつつあるかに関心が向くはずです。


Q.クライエントの認識が現実とかけ離れていて、お互いにずれた認識のまま、毎日OTで楽しく活動していますが、すっきりしません。

A.「クライエントに安心の場を提供する臨床活動をしている場合、COPMを使えば波乱が起きるかもしれない。そう思ったら、波乱処理を引き受ける度胸が必要かもしれません。COPMを使っても使わなくても、クライエントが作業をすることが、クライエントのより良い未来を開くような、そんな作業を見つけることは必須です。


Q.クライエント中心のOTは理想ですが、現実には難しいのではないでしょうか

A.「その通り。難しさの認識から始まります。COPMを紹介した頃には、OTではすでにやっていることだと言った人が多く、違いを理解してもらうのに苦労しました。診断名や障害の重症度から、リハビリテーションの期間やプログラムを決めていこうとする流れの中で、本人がしたいことをできるようにするOTを貫くためには、様々な障壁があります。でも、顧客満足はビジネス成功の重要な要素だし、医学モデルで行うOTの不経済さの証明は結構簡単かもしれません。COPMを行うことで、余計な手間ひまかかる検査をしなくて済むし、人と環境と作業の相互交流的性質を理解すれば、不慣れな環境でADL自立してからしか、退院できないという発想も消えるでしょう。クライエントも作業療法士も認めるOTの成果を説明し、クライエントや家族、多職種から共感を得る努力が必要だと思います。



ここまで書いて冬休みをしていたら、札幌医科大学の佐藤剛先生の訃報を知りました。COPMやEnabling Occupationの翻訳を薦めてくださったお一人でした。YerxaさんのAuthentic OTの論文(OTジャーナル37, 71-74)を読む機会をくださったのも佐藤先生でした。知的好奇心がかき立てられる作業科学の世界へ私を導き、近年私がAMPSに注入している過剰なエネルギーが正当なものだと言ってくださいました。佐藤剛先生はスピリチュアリティになりました。