COPMニュース 第12号

発行日:2003.11.17


だいぶ寒くなってきて夏のことを忘れそうです。冬には「もう暑くならないんじゃないか」と思ってしまいます。
6月に行くはずだった第3回アジア太平洋OT学会に9月に行ってきました。SARS騒ぎで筆頭著者の梅崎敦子さんは参加できませんでしたが,共著者としてCOPMの演題を発表しました。以下が要約です。


「急性期身体障害領域におけるCOPMの使用」

目的:急性期身体障害領域では,どのタイプのクライエントにCOPMを使用したかを示す。

方法:3年間に筆頭著者が担当した193名のクライエント(脳卒中,脊髄損傷,頭部外傷など)を対象とした。

結果:51名(26%)のクライエントにCOPMを使用していた。クライエントが重度の痴呆やコミュニケーション障害をもつ場合,軽度障害で在院期間が短い場合,手術の前後の場合はCOPMを使用していなかった。COPMを実施したクライエントの数とタイプは,最初の2年間と3年目では違いがあった。1年目は11名に,2年目は10名に,3年目は30名にCOPMを実施していた。3年目には痴呆や認知障害があっても,短期間在院の場合でもCOPMを実施していた。発症後15日以内にCOPMを実施したクライエントは,1・2年目は10%だったが,3年目は50%だった。急性期でもクライエントは作業遂行の問題を特定することができた。一方,再評価で身体要素の問題を特定する場合もあった。

考察:COPM使用開始3年目になって,広範なタイプのクライエントに,早期に実施するようになった。作業療法士のCOPM実施技能が向上し,より多くのクライエントに早期に実施したのかもしれない。COPMは作業遂行の問題に焦点を当てるようにクライエントを仕向けるが,クライエントは身体要素にも焦点を当て続けていた。作業療法士は身体要素を反映する作業遂行の目標をクライエントと協働して設定しなければならないと思われた。


隣で原田千佳子さんがクライエント中心のOTの発表をしていたので,こういうテーマに関心のある人たちと話ができました。

イギリスのAlison Warrenさんは,痴呆のクライエントを対象にしている方で,COPMを使い始めた頃は自信がもてなかったけれど,徐々に使えるようになったと言いました。いろいろ話してみると,だいたい3年という人が多い(Alisonさんも,原田さんも,梅崎さんも,私も・・・)ということになりました。

「COPMに興味はあるけど使えない」という声を聞くことがあります。今回わかったことは,「COPMに興味のある人が,日常的に使えるようになるまでに3年位かかる」ということです。皆さんの経験をお聞かせください。

イランやフィリピンでは今はCOPMを使っていないけれど,これから使いたいと言っていました。開催国のシンガポールでは学校で教えているけれど,臨床ではあまり使っていないということでした。クライエント中心というより,疾患・障害中心のOTが主流のようです。

宮前珠子さんの特別講演は「作業療法の本質」というテーマで,疾患・障害別類型思考と,クライエント中心思考が対比され,COPMが紹介されました。講演後に「私は悪いOTだったわ」と,クライエントにとって意味のある作業を見つけることの重要性に気づかされたと話してくれたシンガポールの作業療法士がいました。

カナダのAlberta大学のSharon Brintnellさんから,COPM実施を第1段階とした「7段階の作業遂行プロセスモデル」を学習するためのソフトを開発したという報告もありました。学生はクライエントのシナリオを画面で読み,評価法を選択し,情報を読む・・・という具合に,質問に答えながら,クライエント中心の作業療法プロセスを学習する方式です。

第4回アジア太平洋OT学会は香港です。空港も新しくなるそうで,楽しそうです。シンガポールも香港も養成校は1校だけですが,元気がいいです。


11月1,2日は第3回東海北陸OT学会で「作業の捉え方,使い方」という講演をしました。活動種目の特徴に注目し「アクティビティ」として捉える時代から,本人にとって意味のある「作業(どう名付けるか,どんな経験なのか,作業のバランスは?)」を考える時代になってきたという話をしました。招待講演はロサンゼルスの大きなリハ病院であるランチョーロスアミゴス病院(以下ランチョー)で,長年スタッフ研修を担当してきた作業療法士のリン・ヤスダさんが「Enabling Occupation」というテーマで講演されました。「活動activityは本人にとって意味をもったときに作業occupationになる」というご自身の定義をもとに,ランチョーでどのように作業の目標occupation-based goalを立て,作業を使った実践occupation-based practiceを行い,作業上の成果occupation-based outcomeをあげているかが紹介されました。音楽科の大学生が,電動車いすで両手にMAS(Mobile Arm Support)を装着して,見事にピアノを演奏する様子(ビデオ)は,クライエントにとって意味のある作業を行う生活のために,OTの技術と伝統が結集されているようでした。

学会終了後,リン・ヤスダさんと話しました。ランチョーがCOPMを使うようになったのは10年位前からで,物理的にも内容的にも作業中心occupation-basedに変わったのも同じ頃だそうです。ランチョーでは作業歴評価に続けてCOPMを実施しているそうです。COPM開発者のMary LawやMary Ann McCollをランチョーに招いて,実際にランチョーのクライエントにCOPMを実施してもらったそうです。作業の問題をなかなか話したがらないクライエントから,15分もたたないうちに作業の問題を見つけてしまう(カナダとアメリカで文化が違うにもかかわらず)様子を見て,ランチョーの作業療法士たちはCOPMを使い始めたそうです。

作業中心の実践をするためには作業療法士の考えが作業中心になるだけではなく,設備や制度を変える必要があります。ランチョーでは作業上の成果を取材したいというジャーナリストがいたり,報道によって病院が注目されたことから,管理者が協力的になったということです。「私たちは作業療法士,作業に注目して当然」という主張が結構受け入れられるようです。


質問と回答です。


Q.COPMの時に身体障害など要素機能の障害について,ついつい聞いてしまいます。

A.作業に焦点を当てることを忘れないようにしましょう。その作業がなぜできないかは,COPMでは聞きませんが,どのようにできないか,あるいはどのようにできたらよいかは,聞くことがあります。「服を着るのが難しい」は,どんな服をいつ着るのが難しいんだろうとか,着たい服があるのかな,と考えながら質問します。「母親との関係をよくしたい」は,どんな時にそう思うのだろう,母親との関係がよかったらできるのにって思っていることがあるのかな・・・などと考えながら面接を続けます。クライエントが答え難いことは聞きません。答え易い内容だけを聞いて,今日のCOPMはおしまいにします。COPMは繰り返して行うことで,気楽に使えるようになります。


Q.病気になって他人の世話になっているのに,自分がしたいことを言うなんてわがままだと思っているクライエントにはどうしたらいいでしょうか。

A.日本でも外国でも周りの人に迷惑をかけたくないと思っている人はたくさんいます。「どうすれば迷惑がかからないかを一緒に考えましょう」とか「周りの人は,あなたが何ができるようになればいいと考えているか想像がつきますか」と言うこともできます。


Q.作業の問題を話したがらないクライエントがいます。どうしましょう。

A.朝から何をしたかを聞きながら,作業の問題を見つける方法もありますし,以前していたこと(仕事や趣味など)をお話してもらう方法もあります。訪問リハでは,クライエントの自宅でいろいろな物を見ることができるので,「○○をされるのですか。今はされていますか。またやってみたいと思いますか」などと聞くことができます。「病気が治ればなんでもできる」というクライエントには「病気が治るために,あなた自身ができることがあったらしてみたいですか」と聞くこともできます。作業遂行や障害(作業ができるできない)は人の主観的経験です。クライエントの作業に対する見方が曖昧なら曖昧なままに,そこからクライエントと共に作業療法プロセスを歩み始めましょう。