COPMニュース 第14号

発行日:2004.12.27


長野県作業療法士会学術誌22巻が届きました。昨年夏の研修会で話した「COPM ‐理論から臨床応用まで」が載っています。

最近はCOPM も特別のことじゃあなくなったようだと思うこともありますが、臨床実習指導者から「COPM は使わないでね」と言われたという話もちらほら聞きます。また、実習の事例発表のときに、未だに国際障害分類( International Classification of Impairments, Disabilities, Handicaps: ICIDH )で問題点が羅列されていたり、国際生活機能分類( International Classification of Functioning, Disability, and Health: ICF )の項目で問題点が羅列されています。クライエントにとって意味のある作業を探し、その作業ができるように、クライエントと一緒に作業療法を組み立てていくという視点はどこにもありません。

COPM の評価結果が書いてあっても、「クライエントのニードは非現実的だと判断し・・・」という文章が続いたりします。 Maureen Neistadt さん( Willard & Spackman の作業療法 第 9 版からの編者で第 10 版の準備中に亡くなってしまいました)が、 269 名の作業療法士への調査から、作業療法士がクライエントの優先する問題を重視していると言いつつも、インフォーマルな会話で情報を得るだけで、正式にこれを取り入れた実践をしていないことを報告しました。クライエントの優先する問題を取り入れるための正規の方法として COPMを紹介しています( Methods of assessing clients’ priorities: A survey of adult physical dysfunction settings. Amer J Occup Ther 49(5), 428-436, 1995 )。この時はCOPM があるのに教科書にも載っていないということでしたが、10 年を経て英語の教科書の多くにはCOPM が載るようになりました。日本でも徐々に載るようになっていますよね。


世界作業療法士連盟の作業療法の定義の 2004 年版ができたそうです。

「作業療法は、作業を通して健康と安寧を促進することに関心をもつ専門職である。作業療法の基本目標は、人々が日常の活動に参加することができるようにすることである。作業療法士は、参加するための能力を強化したり、参加をよりうまくサポートするような環境を整備したりするようなことを、人々が行えるようにすることによって成果を出す。
Occupational therapy is a profession concerned with promoting health and well being through occupation. The primary goal of occupational therapy is to enable people to participate in the activities of everyday life. Occupational therapists achieve this outcome by enabling people to do things that will enhance their ability to participate or by modifying the environment to better support participation.

作業療法士は、個人や集団、あるいは健康状態によって心身機能や構造の障害をもっていて参加の際に障壁を経験している人々の集団と協働して取り組むための技能や知識を備えるよう広い教育を受けている。
Occupational therapists have a broad education that equips them with skills and knowledge to work collaboratively with individuals or groups or groups of people who have an impairment of body structure or function due to a health condition, and who experience barriers to participation.

作業療法士は、参加は物理的問題や社会の態度や制度といった環境によって、促進されることもあるし制約されることもあると思っている。それゆえ作業療法実践は、参加を広げていくための環境の側面を変えることに向けられるかもしれない。 Occupational therapists believe that participation can be supported or restricted by physical, social attitudinal and legislative environments. Therefore occupational therapy practice may be directed to changing aspects of the environment to enhance participation.

作業療法は広く様々な状況で実践される。そこには、病院、保健センター、家庭、職場、学校、更生施設、高齢者居住施設が含まれる。クライエントは治療過程に積極的にかかわる。そして、作業療法の成果は、多様であり、クライエントが決め、参加という点や参加がもたらす満足という点において測定される。
Occupational therapy is practiced in a wide range of settings, including hospitals, health centred, homes, workplaces, schools, reform institutions and housing for seniors. Clients are actively involved in the therapeutic process, and outcomes of occupational therapy are diverse, client-driven and measured in terms of participation or satisfaction derived from participation. 」


「参加することができるようにする enable people to participate in 」という表現は「作業ができるということ enabling occupation 」とよく合致していると思います。 ICFの用語である参加と環境を使っているところは他領域に対して作業療法を明確に示していこうとしているようです。また、作業療法士が人々に対して何かをするのではなく、人々がするという点も注目したいところです。さらに、協働して取り組むというのは「クライエント中心のOT 」の真髄です。最後の測定のところはまさにCOPM が測定しようとするものです。

作業療法の定義で、対象から「心身に障害を持った人」という限定を最初に外したのは 1997 年のカナダです。作業療法とは「作業をできるようにすることについて,クライエントと協働する健康の専門職である。クライエントとは個人,集団,機関,組織である。この専門職は 19 世紀の精神病院や作業所での職業的仕事,作業療法士が個人や組織や地域と共に作業をできるようにする手段として作業を使ったところから始まった」

さらに 2002 年にスウェーデンでは「作業療法の対象は,人が何かをすることに関係することである。それは、ある時点での社会的・文化的に定義された活動の文脈で表れてくるものである。作業療法の対象は,個人や環境や活動における資源が,生活環境での参加にどのように関連し,これをどのように促進するかについての知識と科学である。この知識と科学には,日々の生活の満足を高める目的をもって予防的及び治療的方法を用いていくことを含む」という定義にしました。 2004 年の WFOT の定義は、この流れを汲むものといえるでしょう。

ところで、 11 月 19,20 日に三原市で第 8 回作業科学セミナーを開催しました。作業科学は、作業を治療に役立てること(作業療法)とは別に、作業そのものを学問しようということで誕生した新しい学問領域です。作業に焦点を当てて、知識を体系化していこうというわけです。作業科学では、作業の治療効果についてはひとまず棚上げします。そして、「作業ってこんなに奥が深く、力があって、面白い」という気持ちにさせてくれます。セミナーでは、昨年まで同僚だった岡本珠代先生の講演で、教育学者デューイが実際にやってみることを重視し、職業という意味ではなく、作業と意味で occupation という言葉を使っていることを知りました。このデューイは 1922 年に「作業療法の哲学」という論文を書いた精神科医マイヤーと友人で、マイヤーはデューイの影響を強く受けていたのです。自分で決めることができるということは民主主義の基本ですが、「自分で決めると自分の責任になるから、誰かに決めてもらった方が気が楽」という気持ちになることも確かにあります。でも、積極的にこれを肯定することはできません。自分で決めたり責任をとったりすることができるようになっていくことが、大人になることだし、勉強するのは、そういうことができるようになるためだと思うからです。自由な社会というのは、みんなができるだけ、それぞれ自分の思うように生きることができる社会です。そのためには、誰かに責任を負わせたり、自分勝手に振舞うことはできません。人々が自由になってきた歴史を逆に戻すことはできません。昔のように、どの国、どの地域、どの家に生まれたかによって、どのように生きるかが決まってしまう世の中が、再び来ることを望みはしません。

作業療法と民主主義とは考え方が近いと思います。COPM は、クライエントの作業上の問題について、クライエントと共に、クライエントのために、これから取り組む作業療法プロセスの始まりに行うものです。診断名や障害の種別によって、どこに住み、誰と会い、どんなサービスを受けるかが決まってしまう世の中に、COPM は不要です。

言葉はすべてではないけれど、言葉を手がかりに進む方向を模索することを選びます。人の日常の作業の問題は、長い間「語られないもの」でした。凡人の移り変わる思いなど、科学とは無縁なものだとされてきました。こうした何気ない、取るに足らない日常の作業とその作業への思いが、その人となりを作り、その人の人生を描き出すことに注目した作業科学と作業療法の、か弱さを愛しく思う年の暮れです。