COPMニュース 第17号

発行日:2006.11.1 発行者:吉川ひろみ
県立広島大学保健福祉学部 〒723-0053 三原市学園町1-1
TEL 0848-60-1236 FAX 0848-60-1134 E-mail yosikawa@pu-hiroshima.ac.jp



COPMマニュアル最新版「カナダ作業遂行測定COPM第4版」の最終校正が終了しました。11月中には出版される予定です(大学教育出版 TEL086-244-1268)。
COPMは24か国語に翻訳され,35か国以上で使用されているそうです。日本語訳は,4か国語目(1998年)でした。
COPMの実施方法の変更はありませんが,マニュアルには,次のことが追加されました。
* カナダ作業遂行モデル(CMOP)と作業遂行プロセスモデル(OPPM)の説明
* 各国の研究報告
* 子どもや精神障害の場合など難しい場面での使用についての解説
* 部門管理など臨床以外でのCOPM使用についての解説
* 評価表記入例

第4版の中から,いくつか紹介します。
「COPMは作業遂行の問題の決定に役立つだけではなく,作業療法の目的を明確に理解し,クライエント中心のアプローチに参加することにも役立つ」(p.45)COPMの良さを生かすためにはクライエント中心のアプローチは不可欠だと強調されています。
今年の夏カナダの作業療法士(OT)でCOPM開発メンバーの一人でもあるHelenePolatajkoさんと話しました。彼女はCOPMをとても上手く使っているOTもいるけれど,そうでない人もいる。クライエント中心かどうかということが決め手だと言っていました。彼女の経験では,4歳でも自分の作業の問題を言うことができる子もいたそうです。
第4版では,難しい場面でのCOPM使用として,子どもに使う場合について記載されています。OTは,決まったプログラムに子どもが参加するように働きかけることは上手だけれども,どんなプログラムをするかを子どもと一緒に決めるためには,まだまだ工夫や努力をする必要があると書かれています。
「クライエント中心のアプローチをはっきり好む作業療法士は,COPMをとても身近に感じる。作業療法士のアプローチが専門性優位になればなるほど,COPMを気持ちよく受け入れることはできなくなる」(p.45)という記載も,私には思い当たる経験があります。専門職として特別なことをしようという意気込みが,クライエント中心のアプローチにブレーキをかけるのです。クライエントに関する最大の情報源はクライエントだということを忘れず,クライエントがもつ力,自分の人生を切り開き前進させる力を損なわないように,その力を発揮できるようにすることが重要です。
精神障害のクライエントにCOPMを使用する場面の説明で,クライエントはその問題がないと言うけれど,作業療法士はその問題があると考えるような場面は,クライエント中心のアプローチが確かめられる時だと書かれています。COPMでは評価表に,その問題は記載しません。
「作業療法士とクライエントが同じ考えならば,クライエント中心は簡単である。しかし,意見が違う時に,治療関係が真に試されるのである」(p.62)という文章の後に,病院や施設における職員とクライエントの力の不均衡が指摘されています。さらに「医学的,科学的権威と熟練した専門性を尊重する世界における既存のシステムにおいて,クライエント中心の立場から実践を行うことは挑戦の連続である」と続きます。
クライエント中心のアプローチを実現するためには,見えない権力構造の影響を敏感に感じ取り,効果的かつ戦略的に行動する必要があることを再認識しました。
第4版のもう一つの新しい点は,仕事の評価としての使用を提案していることです。「もっとうまくできたらいいと思う仕事はなんだろう」と自問自答しながら,仕事上の課題をリストアップして,重要度を付け,優先する問題を5つ以内で選びます。それぞれについて,今のところ何点くらいの出来か(遂行度)と,満足しているか(満足度)を10点満点で採点します。各期の終了時に再評価すると,自分に課せられた仕事の課題ができると思えるようになったか,その仕事の成果に満足しているか,がわかります。COPMのこのような使用方法は,私が昨年第4版を手にする前に,偶然実施していたものでした。みんな似たようなことを考えるものだと思いました。
COPMを上手く使うためには,クライエント中心のアプローチを理解することに加えて,作業の視点を強くもつ必要があると感じています。


2000年から作業科学を学生に教え始めたので,今年で7年目になります。やっと自作のテキストのようなものを使えるようになりました。「作業とは,文化的個人的に意味をもつ活動の一群で,文化の語彙の中で名付けられ,人間が行うことである。Chunks of culturally and personally meaningful activity in which humans engage that can be named in the lexicon of the culture(Clark, 1991)」,「作業とは,日々の生活で行われ,名付けられている一群の活動や課題で,個人と文化によりその価値と意味が付与されたものをいう。Activities…. everyday of life, named, organized, and given value and meaning by individuals and a culture(カナダOT協会,1997)」こうした定義の説明に加えて,具体的,多面的に,学生と共に考えることができるようになった気がします。
就職1年目のOTが「COPMをなかなか使えなかったけれど,使ってみた」という話をしてくれました。COPMの面接中には,「したいこと」を話すことができなかったクライエントでしたが,翌日病室を訪問すると,洗濯物の袋に手を入れてのぞいていたそうです。作業療法で洗濯物の整理をしましょうかと言ったら,「爪も切りたいのだけれど」と話し始めたそうです。作業に焦点を当てて生活を省みること,作業の視点から問題を考え直すことは,きっかけがあれば,少しずつ始まっていくものです。
別の新人のOTは,長年人工透析をしていて入院している女性に,「してみたいことはありますか」と聞いたら,そんなことを聞かれたのは初めてだと言われたそうです。病気のことでは,病院のスタッフがいろいろしてくれるけれど,何がしたいかと聞かれたことはなかったそうです。その女性は,病院内にある植物園に行ってみたいと言い,その希望はすぐに叶えられました。そして,行きたい時に植物園に行く方法について,OTと一緒に考えました。


10月29日鳥取県作業療法学会で「クライエント中心のOTの意義」について話しました。ギターの上手なOTが「What a wonderful world」を弾き語りで歌ってくれました。初めは「歌好きの人の歌を聞く」という作業でしたが,ルイ・アームストロングの生い立ちや歌詞の意味を聞いた後は,ぐ~んときました。そして「それでも人生って素晴らしい,この世界は美しいって思えるように生きていきたいという気持ちを共有する」作業になりました。作業をすることは,自分や世の中に対して意味を感じる経験です。作業をすることで,自分ができあがっていく,世界が動いていく。人も世の中も,いつも成り立ちの途上にあると思いました。
1998年のWFOTで聴いたAnn Wilcockさんの講演にあった「doingからbecomingへ」という話を思い出します。今年の夏シドニーで出会ったWilcockさんの教え子や友人たちが,作業をするという人々の力を引き出し,貧しさや劣悪な環境や不平等な社会を変えていくという仕事をしていることを知りました。人間は自分で何かをすることを通して,自分自身も,自分が暮らす環境も変えることができる。「何をするか」ということ(doing, occupation)に関わることができる作業療法という仕事が,本当に素晴らしい仕事だと思えるのです。


【お知らせ】
*OT協会国際部では,12/9(土)三原市の県立広島大学三原キャンパスで,英語文献の読み方と作業療法用語の英語表現について研修会を開催します。研修会終了時には,自分用のOT用語リストが完成する予定です。参加希望者は西田征治さんs-nisida@pu-hiroshima.ac.jpまでお知らせください。
*第10回作業科学セミナーが,12/2(土),3(日)に藍野大学で開催されます。詳細は http://www.jsso.jp/ をご覧ください。
*第22回AMPS講習会が,3/21~25,大阪医療福祉専門学校で開催されます。受講希望者は, 件名に必ず「大阪」と記入し,村井真由美さんampsw22@hotmail.co.jpまで申し込んでください。2007年度は,5月福岡,8~9月熊本と石川を予定しています。