COPMニュース 第20号 |
発行日:2009.08.24 発行者:吉川ひろみ
県立広島大学保健福祉学部 〒723-0053 三原市学園町1-1
TEL 0848-60-1236 FAX 0848-60-1134 E-mail yosikawa@pu-hiroshima.ac.jp
「COPM,AMPSスターティングガイド」(医学書院,税込3990円)が増刷されました。皆さんに読んでいただいて本当にうれしいです。
COPMを上手に使うためには,相手がリラックスして話せるような態度や,面接技術も必要ですが,それ以上に重要なのは「作業に焦点を当てること」と「クライエント中心」です。
私自身は,作業科学の文献を読んだり,カナダ作業療法士協会の作業療法ガイドライン(1997年の「Enabling Occupation: An Occupational Therapy Perspective(作業療法の視点:作業ができるということ)」と,2007年の「Enabling Occupation II: Advancing an Occupational Therapy Vision for Health, Well-being,&Justice Through Occupation」)を読んだりすることを通して,作業に焦点を当てて物事をみることができるようになってきたと思います。
「COPMをどう使っていいかわからない」と言う人は,行為者の主観を重視して作業を捉えずに,動作と心身機能に焦点を当てていることが多いようです。「トイレに行く」ために,バランス訓練や立位訓練,トイレ動作訓練をします。トイレ動作を自立させるために,輪投げをしたりします。尿意も不確実で,座位も立位も不安定なため,トイレ動作自立が困難であれば,介助量の軽減が目標になります。不特定な介助者にとって,何が介助量の軽減になるかもわからないまま,自立できそうな部分的な動作を反復練習するのです。「幸せを感じる作業を見つけるCOPM」だったはずなのに・・・。PT室でもOT室でも似たような動作訓練が続き,クライエントは回復への希望を抱くことを止め,治療者に言われるまま時間を過ごす日常に慣れていくでしょう。
3月に卵巣がんの手術を受け,26日間入院しました。手術後しばらくして,看護師にも,医師にも,薬剤師にも,「回復のために私にできることがありますか」と聞きましたが,「ありません」あるいは「待つことです」と言われました。手術直後は腸が癒着しないように動くように言われましたが,どのようにどの程度動くかは,ほとんど教えてくれませんでした。テレビを見たり,本を読んだりしているときは何も言われませんでしたが,ワープロや編み物をしていると「根を詰めないで」とか「肩がこりませんか」と言われ,止めろと言われている気がしました。
入院中の作業について,自作の「作業の意味振り返りシート」に記入してみました。
「治療に関連する作業は,不快で,手段としての作業で,患者役割を果たすもので,自分らしさや時間的つながりはありませんでした。手術後1週間を過ぎた頃からは,回復をあまり実感できないまま,不確定な退院の日を待っていました。入院生活を構成する作業の中で,見舞客と話すこと,手工芸作品を作って友人にプレゼントすることが,私を少し幸せにする作業でした。見舞客と話す作業は,楽しく,目的としての作業で,人や時間とのつながりを感じ,自分らしく,自由な作業でした。友人の一人が手芸キットを持って来てくれたことから,小物を作り,近々誕生日が来る友人にプレゼントすることにしました。初めから望んだ作業ではありませんでしたが,退院後手芸店でレース編みの材料を買い,その後の抗がん剤治療のための入院中にも,いろいろな花を編みました。
もう一つ驚いたのは,新学期のガイダンスで学生たちにメッセージを送るという作業でした。これは同僚からの提案でしたが,最初は乗り気ではありませんでした。でも,書く気持ちになったら書いてみてと,別の同僚が4枚の便箋を置いて行ってくれたのです。
学生たちのことを想い,4月から私が行うはずだった数々の作業を思い起こし,学生たちにメッセージを書きました。1年生から4年生まで1枚ずつ書きました。この作業は,メッセージを書くという作業そのものが私に教員としての自覚を持たせ,これまでの私の人生とのつながりを感じさせ,私を社会的存在とする作業でした。私の友人や同僚は作業療法士です。私の存在に深く関わる作業をする機会を作ってくれたのです。
2007年にカナダ作業療法士協会が出版した「Enabling Occupation II」では,作業療法士がもつべき10の技能について説明しています。うまくできるように道具や環境を適応させたり(adapt),本人に代わって代弁したり(advocate),コーチになったり(coach),一緒に力を合わせて協働したり(collaborate),相談に乗ったり(consult),関係者の調整をしたり(coordinate),計画を立てたり何かを作成したり(design/build),教育したり(educate),作業と結びつけたり(engage)といった技能です。特定の治療アプローチをする技能は特殊化された技能(specialize)として10の技能のひとつに位置づけられます。クライエントと作業療法士がパートナーとなって,この10の技能を効果的に使うことを提案しています。
クライエント中心とは,クライエントと作業療法士がパートナーとなることです。これは,物事を決めたり,状況を左右したりする力(権限)を共有することです。作業療法士が一方的に質問し,クライエントが回答するという関係は,パートナーとは言えません。クライエントを幸せにするパワーをもつ作業を,作業療法士はクライエントと一緒に探していきます。1回のCOPMの面接で見つかることもありますが,これまでの生活を振り返ったり,一緒にさまざまな作業を経験することで見つかることも多くあります。 作業に焦点を当てるということは,行うことdoingに注目することです。○○障害があるから,高齢だから,要介護者だから,というのはbeingに注目した見方です。人はどんな状態にあっても,何をするか,何をしないかで,将来の自分自身を作っていくことができる,これが作業療法の人間観です。
8時間半の手術で,お腹にあったものが減りました。更年期障害が一挙に来るかもしれないと言われましたが,今のところ大丈夫みたいです。16年前のアメリカ留学中に「女性と加齢(women and aging)」という授業をとりました。更年期障害は社会的病気であり,開発途上国では報告されていない,男性婦人科医師の研究業績を上げるために仕立て上げられた病気だ,などと書かれた本を読みました。疾病ではなく,女性の人生に起こる変化の一つとして捉えることが推奨されていました。ミスは誰の娘かを示し,ミセスは誰の妻かを示す。男性によって定義される呼称を使う国で,子どもを産む可能性を失った女性の居場所はない。こうした社会の見方と,無意識にこの見方を受け入れている女性が襲われる症状が,更年期障害と呼ばれている。女性学研究者によるこの教育が,私の更年期障害を軽減するのではないかと思っています。