COPMニュース 第5号

発行日:2000.1.31


2000年の幕が開いて1か月経ちましたが、日付を書く時に最後の0が変な形になってしまいます。9を3つ書くのと0を3つ書くのでは、0の方が書きやすそうですが、慣れないということはこういうことなのでしょう。
臨床や教育の場でCOPMは役立っているでしょうか。英国留学中の友人(大橋秀行氏)の調査では、英国の精神科作業療法でもっとも共通 に使われている評価法はCOPMだったそうです。
昨年、授業(90分を2回)でカナダ作業遂行モデルとCOPMの講義をしました。11月に香川県士会(講師:近藤敏氏)で12月に島根県士会で同様の講義を行い、3月には岐阜県士会でCOPMの紹介を行う予定です。その中で強調している3つの概念について報告します。


カナダ作業遂行モデルの魂についての説明で星野富弘氏の詩を紹介します。
「・・・一番言いたいことが言えないもどかしさに耐えられないから 絵を書くのかも知れない うたをうたうのかも知れない それが言えるような気がして・・・」(風の旅、むらさきつゆくさ)。
カナダ作業遂行モデルでは、人は魂(スピリチュアリティ)を中核にもつ存在です。作業をする姿や出来上がった作品を通 して、その人の奥底から発せられる何かを感じることがあります。年末の紅白歌合戦で久しぶりに見たゴダイゴが「ビューティフルネーム」という曲を歌っていました。
「名前 それは 燃える いのち 一つの地球に 一人一つずつ・・・」
一人一つずつあるもの、それこそが魂だなあと思いました。研修会などでは、魂の意味がわからない、西洋的だ、spiritualityに魂という訳は相応しくない、とよく言われます。言葉では端的に言えないけれど、人はみんな違う、人を唯一かけがえのない個人にしているものが一人一つずつあるはずだというのがカナダ作業遂行モデルの人間観です。


次にEnabling Occupation作業の可能化という概念です。これは、Willard & Spackmanの作業療法8版までの巻頭に載っていた中国のことわざ「一匹の魚を人に与えよ。しかれば、その人、一日空腹にあらず。魚とりの術を人に教えよ。しかれば、その人、生涯空腹にあらざるなり。」に通 じるところがあります。しかし、魚とりの術を教えることはEnabling Occupationの一部でしょう。
「為せば成る 為さねば成らぬ  何事も」という言葉があります。この「為せば成る」ようにしていくことがEnabling、「何事も」を「本人にとって意味のあること」に変えてこれをOccupationとみることもできるような気がします。Enabling Occupationとは、作業ができようになること、何をするか選んだり、好きなやり方で自分で行うか、援助を依頼するか、ということです。「仕事ができる」という言葉はありますが、作業ができる、とは言わないので、Enabling Occupationを作業の可能化(山崎せつ子氏訳)と訳すことにします。


最後はクライエント中心の作業療法です。その特徴は以下の通りです(Law, 1998)。
*クライエントや家族を尊重し、彼らの選択を尊重する。
*作業や作業療法サービスの最終的決定を下すのはクライエントや家族である。
*情報や身体的安楽や心理的サポートを提供する。コミュニケーションを大事にする。
*作業療法サービスへのクライエントの参加を促進する。
*柔軟で個別的な作業療法サービスを行う。
*作業遂行の問題をクライエントが解決できるようにする。
*人-環境-作業の関係に焦点を当てる。


すでに作業療法プログラムが決まっている場合や、専門職だけが真のニードを知っていると思っている場合に、クライエント中心の実践はあり得ません。時間や施設の使命など、状況的制約は付きものですが、クライエント中心の実践に賛同するなら、作業療法士のしなやかな創造力が扉を開き、クライエントと共に進む道ができていくことでしょう。米国作業療法協会の雑誌OT PRACRICE(2000年1月号、Continuing Education Article)でも、医学モデルの臨床の中にあって、クライエントの生活上の作業に焦点を当てた作業療法を行うことは挑戦が必要だが不可能ではない、と述べています。そのための手段としてCOPMを紹介し、上記に示したクライエント中心の作業療法の7つの特徴を記載しています。


作業に焦点を当てた作業療法を考えるとき、 個人が独自にもつ作業の意味の大きさに気づきます。
「絵を描くのは 旅をするのとおなじ 私は今 花びらの谷間から雄しべと雌しべの 丘に続く 春の小道を 旅している」(星野富弘:鈴の鳴る道、ぼたん)
見かけは違う作業でも意味は同じ。見かけは同じ作業でもその意味は人によっても、時と場合によっても違うのです。作業をすることによって、その人の隠れた部分が躊躇しながら顔を出したり、あるいはその人らしさがのびのびと表現されたりするものです。作業療法士は作業を通して、その人の奥底にある魂に呼びかけているようにも思えます。とりあえずやってみること、ちょっと無理をしてみること、このへんで満足してみること、心と体を動かしながら作業に取り組むことを作業療法士はそばで見守り、時に手を貸します。


日本でのCOPMの事例と、私が勝手に選んだCOPMを有効に使うための主要文献の概要をまとめた冊子を作成中です。また、カナダ作業療法士協会発行のガイドライン「作業療法の視点:作業ができるということ」の翻訳も進んでいます。来夏には出版に漕ぎ着けたいと思っています。


アジア太平洋作業療法学会(台湾、1999.9)で耳にしたCOPM関連の質問と回答です。


Q.(COPMのワークショップ参加者から)COPMは文化的制約がないculture freeと言っていたけど本当ですか。

A.ひとり一人のクライエントを中心にしたオーダーメイドの方法なので、どこの文化圏でも使えます。


Q.(Mary Law氏のCOPMの発表に対して)アジア人は受け身的なので、自己表現を期待するタイプの評価法は不適切なのではないですか。

A.コミュニケーションを基盤にしているので、コミュニケーション方法を工夫すれば使えます。この工夫はいつでも必要です。


Q.(私の発表に対して)受け身的な人に対してどのように使うのですか。

A.絶対的に受け身的な人はいません。積極的な人と比べたときに受け身的に見えるだけです。クライエントひとり一人に合わせたコミュニケーションをします。


Q.アジアの高齢者は若い人に世話をしてもらうのが当然だと思っています。文化が違うので、西洋で開発された評価法はアジアでは使えないと思います。

A.本当に若い人に世話をしてもらいたいと思っているのか、若い人に迷惑をかけたくないと思っているのか、クライエント本人に聞いてみなければわかりません。文化圏ごとの価値観の特徴を研究するよりも、目の前のクライエントを知るためにCOPMが使えます。


Q.COPMを実施するときの説明の仕方のマニュアルが必要ではないですか。熟練した作業療法士はクライエントに合わせて適切な言葉を使ってCOPMを実施できるかもしれませんが、初心者のためには台詞集のようなマニュアルが必要でしょう。

A.そうかもしれませんが、個々の作業療法士が自分のスタイルでクライエントの様子に合わせて言葉を選んでいくプロセスも大切だと考えています。使い方の柔軟性もCOPMの特徴の一つなのです。(とは言ったものの台詞集があると便利かもしれません)


韓国と台湾の作業療法士がそれぞれCOPMの翻訳を予定していました。