COPMニュース 第6号

発行日:2000.11.15


カナダ作業療法士協会の最新ガイドラインの翻訳が遂に出版されました。「作業療法の視点 作業ができるということ」(大学教育出版,付録のワークブックもセットで3400円+ 税)です。書店を通してご購入ください。出版社の電話番号は086-244-1268です。編者のエリザベス・タウンゼントさんは序文で「...日本はクライエント中心の実践に関するカナダの最新のガイドラインの 翻訳によって,ここでまた一つ前進しました。作業ができるということ 作業療法の視点(原題 “Enabling Occupation: AnOccupationalTherapyPerspective”)は,世界中の作業療法士がこの専門職 のルーツに焦点を当てることを念じて,カナダ作業療法士協会が1997年に出版しました。」と述べ,作業療法のルーツを3点あげました。


i)何をするか(doing)によって,その人の現在の状態や役割(being)が決まる。そして将来どうなって いくかbecoming)が決まる。そのために本人にとって意味のある作業をすること(doing)に焦点を当てる。
ii)治療や管理よりも共に取り組む協業のプロセスを重視する。
iii)障害をもつ人も意味のある作業をする機会をもてるような平等な社会を理想と考える。

彼女の熱いスピリチュアリティ(魂)が伝わってくるような内容です。私たちは作業療法という考えを 使って世界をもっとよいものにできるかもしれない。本人にとって意味のある作業ができるようになることの重要性を十分に理解した作業療法士が世界中に増えたら,きっといいことがあるにちがいない。そう思わせてくれます。


7月に札幌医大で開かれた作業科学セミナーに参加して,オーストラリアのAnn Wilcockさんの講義を聴 きました。彼女は「私はOTになって最初の30年間,作業に焦点を当て損なってきた」と言い,今も多くの世界中の作業療法士が彼女と同じ道を辿ろうとしていることが残念だと言いました。そして,作業療法を説明するよりも健康に与える作業の影響を説明する方がずっと一般 の理解を得やすいとも言っていました。毎日どんな作業をして暮らしているかで,その人の体型や内臓の働きや心の状態が決まるという考えは一般 受けすると言うのです。
世界のあちこちで,occupation embeded in a real life(本当の生活に埋め込まれた作業),real ocupation(本当の作業),meaningful occupation(意味のある作業)とか言って,作業療法士たちは作 業に注目しようとしています。これは作業が単一の治療目標を達成するために段階付けられた活動以上の ものであるという主張です。私たちも自らの生活とクライエントの生活を振り返り,作業のもつ力と豊か さを確認していきましょう。


9月に神戸,11月に大阪でCOPMの研修会をしました。12月は島根で「クライエント中心の作業療法のた めに今できること」というテーマで研修会をします。「作業療法の視点」の付録ワークブックを使う予定 です。ワークブックには12の練習問題があって,勉強会や授業に便利です。作業療法評価学やADLの授業 の中でCOPMを教えています。評価学は,Willard&Spackmanの作業療法 第9版の第13章,評価と面 接のための概論を基盤にCOPMができる程度の面接技術獲得を授業目標にしています。


では,最近の質問と回答です。


Q.クライエントがCOPMに回答できない場合,家族や介護者などの代理人にCOPMを実施するとありますが,クライエントの意向と代理人の意向が違う時はどうしましょう。

A.クライエントがきちんと答えられないと思っても,まずは聞いてみましょう。予想外に回答できると びっくりしている人が大勢います。第1段階しかできなくても作業療法を行う上での重要な情報になります。この場合COPMを部分的に利用したことになります。
クライエント,家族や介護者に別々にCOPMを実施し,話し合いの資料にしている人もいます。また,作業療法サービスの成果を期待する人が真のクライエントだと言う人もいます。処方箋に書いてあるクライ エント名ではない人が作業療法によって変化する人かもしれません。介助者への説明や介護方法の指導と いう作業療法によって変化するのは介助者なので,COPMも介助者をクライエントとして行います。
人は誰でも自分以外の別の誰かにはなり得ません。これはCMOP(カナダ作業遂行モデル)でスピリチュアリティを中心に据えていることと同じです。人は誰でも唯一無二の存在であることを承知した上で,代 理人を認めることがあります。


Q.COPMで「したいこと」を聞いても「ない」と言う人には活動リストを作ってチェックするとよいと思いますがどうですか。

A.だめです。COPMはクライエント本人にとって,どんな作業が関心事となっているかを探り当てることを目的としています。一日のスケジュールを聞いたり,クライエントの言動などからヒントを得て例をあげて質問してください。誰にでも共通に使うための活動リストはけっして使いません。評価用紙の活動例 をそのまま質問することもやめましょう。


Q.COPMを実施するための面接技術を身につけるためにはどうしたらよいですか。

A.最近の医学教育では問診ではない医療面接medical interviewの技術が注目されています。面 接技術の中でCOPMでもっとも重要なのは,応答(内容の確認と情緒的共感を示すこと)と言い換え・要約だと思います。COPMはクライエントと作業療法士がクライエントの生活の中で重要で意味のある作業を探し求めるプロセスです。従って,常に話の要点をつかみながら先へすすんでいかなければなりません。あらかじめ存在する問題を見つけるのではなく,クライエントの作業上の問題は何かを一緒に考えていくのです。
だいたいの問題が分かりかけたら,その問題に名前をつけ,確認し,優先順位をつけるのです。これは作業遂行プロセスの第1段階に相当します。


Q.作業療法のプログラムがすでに決まっているので,COPMの結果をどのように臨床で活用できるかわかりません。

A.精神科や老人のデイケアではグループ主体のプログラムだけが行われている場合があります。しかし,作業療法とは何かを考えてみましょう。作業療法の目標は,当人にとって意味のある作業ができるようになることです。そのための時間と場所が必要です。「作業療法の視点」では,私たちがクライエントに関わるだけでなく,作業療法サービスのシステムを作り上げ,障害をもった人が社会参加できるような 社会を作るために仕事をする必要性を説明しています。とはいっても,急に理想が現実になることはない ので,就労プログラムの立案や新しいプログラムの企画を任されたときに,個々のクライエントにとっての重要な作業に焦点を当てたプログラムを提案していきましょう。そして普段から,そのための資料や情報を集めておきましょう。


Q.COPMと作業遂行の観察評価であるAMPS(Assessment of Motor and Process Skills)は一緒に使えますか。

A.はい。作業遂行プロセスモデルの第3段階でAMPSを使います。AMPSはクライエント中心の状況で使う評価なので,COPMによって得られた情報はAMPSの課題選択のための重要な情報になります。



もうすぐ21世紀,味のある美しい人生をひとつひとつ作っていきましょう。