COPMニュース 第7号

発行日:2001.5.30


COPMの最新マニュアル「COPM カナダ作業遂行測定 第3版」が刊行されました(大学教育出版、1500円+税)。これはLaw M.,Baptiste S., Carswell A., McColl M., Polatajko H., Pollock N.: Canadian Occupational Performance Measure third edition. Ottawa, ON, CAOT Publications ACE, 1998の翻訳です。 すでにCOPMを使っている人は、評価方法や事例の変更はありませんから購入の必要はないです。
理論と作業療法プロセスについては「カナダ作業遂行モデルCMOP:Canadian Model of Occupational Performance」と作業遂行プロセスモデルOccupational Performance Process Model」が明記されました。これについては、カナダ作業療法士協会の最新ガイドライン「作業療法の視点:作業ができるということ」(大学教育出版3400円+税)(Canadian Association of Occupational Therapists: Enabling Occupation: An Occupational Therapy Perspective. Ottawa, ON, CAOT Publications ACE, 1997)を読んでください。書店を通して購入できますが、大学教育出版の電話番号は086-244-1268です。原本はインターネットのwww:caot.caにアクセスしてください。


COPM評価表の作業の3領域セルフケア、仕事、レジャーの仕事を生産活動に変更しました。理由はCOPMの基盤理論CMOPの和訳でpuroductivityを生産活動としたからです。いずれにしてもインタビューでは、クライエントと作業療法士両者にとってわかりやすい言葉を使うことになっているので、評価表の言葉だけをそのまま使うことはありません。


カナダの作業療法士たちが始めたクライエント中心のOT(クライエントとパートナーになって共に取り組むということ)に関する本が2冊、協同医書から翻訳されました。宮前珠子、長谷龍太郎監訳「クライエント中心の作業療法:カナダ作業療法の展開」と田端幸枝ほか訳『「クライエント中心」作業療法の実践―多様な集団への展開―』(近日刊)で、共に3800円+税です。


今年の1月韓国でCOPMの著者の一人Sue Baptisteさんを迎えて研修会があり約300人参加したそうです(韓国のOTはほぼ400人、参加者の大半は学生)。ハングルのCOPMマニュアルはカナダ版と同じ黄色と黒の表紙でした。第3版日本語版はなぜか、赤から青になりました。


カナダのジャーナルに「クライエント中心の実践がなぜそんなに難しいのか」という論文がでてました(Wilkins S. et al: Implementing client-centred practice: why is it so difficult to do? Canadian Journal of Occupational Therapy 68(2), 70-79, 2001)。組織、作業療法士、クライエントの各レベルでの課題を考察しています。「クライエント中心を信奉する作業療法士は多いのに、15年以上もたったのに、理論は発展してきたのに、理論と臨床とのギャップは残る」ということです。


では、最近の質問と回答です。


Q.以前のCOPMニュースを読むにはどうすればいいですか。

A.精神科作業療法協会のホームページにCOPMニュースを掲載させていただいています。


Q.このモデルは革命的なことだといえるでしょう。IL運動から続いている当事者の言葉に本当に丁寧に耳を傾けていくと当然の帰結かもしれません。そして医療と言う環境がbottom upの志向と行動パターンをとらせやすいという環境からの影響を考えると、top downの作業遂行モデルをやっていくためには、「OTは今日から変わりました。今までと違う発想で皆さんのお役に立ちます。」というキャンペーンを張るぐらい意識をかえないとなかなか難しいかなと言う気もします。

A.授業後の学生の感想には「今まで教わった評価とはまったく違う」というものが少なくありません。その一方で「別に新しくもないことを何を取り立てて今さら」と言う作業療法士も少なくありません。不思議なことです。最近はとにかく使えそうだと思ったらCOPMを使ってみて、と言っています。


Q.このモデルをみていると、OTは本来の作業に焦点をあてることをはじめた結果リハチームあるいは医療チームから抜け出て独自の道を歩み始めたと言うことになるのでしょうか?OTはこういう視点をとるのだと言うことを、他職種、一番近しいPT、ナースに伝えていく必要があります。訪問リハ研究会などでは地域ケア、医療のなかでリハ(リハビリという言葉は実体がないけれど)はまだまだ弱いのだからPT、OTの違いなどと言っている場合ではなくて、一丸となってリハシステムを確立しなくてはならない、という声が強い。このモデルの変化は予想以上にPTをいらだたせるかもしれません。

A.友人のPTにCOPMの話をすると好意的な人は「QOLの評価だね」と言い、その他は「訳のわからないOTがまた訳のわからないことを言い出した」という表情です。でも重要な作業との出会いが人生を変えたという経験は誰でも共感できます。これがこうできたらクライエントがこう変わったという話をすると「へえ、よかったね」と優しい表情に変わります。そこで私が「ねえ作業でしょう」と言うとまた表情はくもるけど。


Q.クライエント中心のOTをする上では、日本のOT全体の方向性として方針を決めていくことが大切ではないかと思いますが。

A.カナダは協会主導でクライエント中心という理念もCOPMもガイドラインも作りあげましたが、15年以上たってもクライエント中心は難しいと言っています。日本は全体の方針とする気配はありませんが、この理念に共感する一人ひとりのOTが身近で実践していくことが何より大切だと思います。


Q.集団OTをしていますが、COPMはグループでもできますか。

A.OTのクライエントは誰かによって決まります。高齢者サークルが活動を展開する上で困ったことがあると作業療法士に相談した場合は、この高齢者サークルが作業療法のクライエントです。企業がクライエントになって従業員の労務災害を減らしてほしいと作業療法士に依頼する可能性もあります(「作業療法の視点」第4、7章を参照)。集団で行っていても、OTのクライエントはメンバー一人ひとりだとすれば、COPMは個人個人に実施して個人別のOT目標と計画の中で集団を使うことになるでしょう。


Q.COPM、クライエント中心のOTの考え方はケアマネジメントと共通する部分が多いと思います。エンパワメントを促進し、利点を強調します。でも「作業療法の視点」の第5章にあるような社会資源を上手く使ったり、サービス環境を整備するのは、ソーシャルワーカーの方が得意ではないでしょうか。

A.そうですね。有効なチームアプローチについて経験を積み重ねていきたいと思います。この第5章は、クライエント中心のOTを進めていくと環境との関わりが増えるのは必然であること、従来の作業療法士は社会的理想(誰でも自分にとって意味のある作業ができるような社会)という意識が薄かったことを私に気づかせてくれました。


Q.OTはしたいことができるようになる(enabling occupation)だけでいいのですか。

A.それが最重要目標です。本人にとって意味のある作業ができるということが何より重要だというのがOTの人間観、信念です。OTの技術は、作業ができるようになるために必要な内容を含みます。人生は作業の積み重ねであり、歴史は人の作業の足跡です。作業療法士が作業に焦点を当てて物を見たり考えたりすることは、作業療法という名前と歴史から正当なことです。どんな人でも意味のある作業ができるよう援助するための知識と技術を蓄え、使うのが作業療法士です。