COPMニュース 第9号

発行日:2002.7.5


ストックホルムのWFOTに参加してきました。抄録集がCDでした。
COPMというキーワードでヒットした演題は26題ありました。デンマーク、オランダ、ドイツ、シンガポールなどから信頼性、妥当性、臨床的有用性を調べた研究、症例報告、介入の成果測定指標として使った研究がありました。
私の発表(前号ニュース参照)とよく似ていた発表は、スウェーデンで作業療法士のフォーカスグループ(グループ面接みたいなもので質的研究法のひとつ)を行ってCOPMの性質を調べたものでした。目標設定、準備、限界、クライエントとの関係、実践への影響というテーマがあがっていました。
COPM開発者の一人であるカナダのSue Baptisteさんが韓国と日本のCOPM利用者とクライエントの調査結果 をもとに、COPMに馴染みがあることの重要性、同等なパートナーという概念、文化的役割(臨床家はエキスパートであるべき)、障害に対する理解の促進、COPMを通 して要素機能から作業遂行への焦点の移行について考察していました。
私の発表ポスターでは、オランダ、オーストラリア、アメリカ、タイなどの作業療法士が、国が違っても同じ見方があることは興味深いと言ったり、日本で使うときに特別注意していることを聞いたりしました。
今回の報告では、作業遂行に焦点を当てたインタビュー技術の体系的な教育の必要性を主張し、参加者から具体的教育方法について情報を得たいと思っていました。ある大学では作業療法士がカウンセリングの授業を教え、その中で演習も行っているとか、年齢差のある知人に面接するという課題を学生に課しているという話を聞くことができました。シンガポールもタイもOTの学校は一つだけだそうで、そこでCOPMを教えているそうです。スウェーデンOT協会は年間5回程度、クライエント中心の実践とCOPMの2日間の研修会を開催しているそうです。コプムと発音している人もいたし、発表のなかで長々とCOPMの説明をする場合もありましたが、4年前のWFOTでは、COPMとEnabling Occupationのワークショップに参加した人は30名程度だったことを思うと、シーオーピーエムはOTの共通語になりつつあるようです。


6月にカナダOT協会著「Enabling Occupation: An Occupational Therapy Perspective」(Ottawa, ON, CAOT Publications ACE, 1997.邦訳「作業療法の視点:作業ができるということ」大学教育出版)が改定されるということでしたが、この本に対する読者の反応と最新文献が掲載された16ページが冒頭に追加されただけでした。邦訳は1997年刊のもので4月に増刷されています。
なぜ、現在COPMが注目されるに至っているかという理由について私見を述べます。

 

1.OTでは当事者の主体性が大事だということがわかりやすい。
命令されて嫌々行うのではなく、興味をもって自ら行うことによって、人間というのは成長したり、元気になったりするというOTの信念と、COPMの第1段階で「何をしたいか」「何をする必要があると思うか」を聞くことはよく合致しています。
2.OTは個別性に重点をおいているという宣言になる。
人はみんな様々な考えをもっているし、好きなことも十人十色だと考えるOTは、診断名や障害の種類で区分された患者集団毎に効果を示すOTの内容を特定することができず、科学的ではないという批判を受けてきました。COPMは集団の変化ではなく、一人一人の好み、当人が重要だと認める問題を探り、その変化を見出すと宣言しているので、上記の批判に理論と実践で対抗することを可能にしたのです。
3.クライエントとの独特な関係が生まれる。
COPMを実施するにつれて、クライエントの視点は私とは何とも違うものだと気づきます。COPMを通 して、自分の人生のエキスパートは自分だ(エキスパートとしてのクライエント)ということを実感できる場面に出会います。この時に「クライエントの見方は歪んでいる」とか「現実検討できていないなあ」と思うようなら、Enabling Occupation、クライエント中心の実践、協働的パートナーシップ、エンパワメント、ヘルスプロモーション、現象学、カナダ作業遂行モデルなどについてもっと知る必要があります。
同じ目標に向かう同志としてクライエントと共に歩み続けることを心地よく感じる作業療法士になるためには、専門家の権威という意味を見直すことになります。専門知識を平易な言葉で説明し、専門技術をクライエントの協力を得ながら試していくうちに、作業療法士とは、人や環境や作業に工夫を凝らし、作業をできるようにする名人だとお互いに信じられるようになります。


第36回日本作業療法学会のCOPMのセミナーには大勢の皆さんに集まっていただきました。
では、質問と回答です。


Q.COPMの第1段階で作業上の問題を聞くときに、なぜそれが問題なのかも合わせて聞いた方が、対象者理解が深まると思います。

A.COPMは作業遂行に焦点を当てた評価法なので、要素機能(人の身体、認知、情緒の側面 )や環境(文化的、社会的、物理的、制度的側面)は、作業遂行の問題を決めた後で評価します。白衣を着ている作業療法士には、要素機能の問題を語るものだと思っているクライエントが多かったり、相談業務についている作業療法士には環境の問題を語るものだと思っているクライエントが多いと思います。そのような場合に「何をするときに一番そう思いますか」とか「それは○○などをするときには困りますよね」と、話題を作業遂行に仕向けることもあります。また、COPMの平均実施時間は30分程度ですが、作業の問題が生じる理由まで話していると時間が長くなってしまいます。


Q.クライエントと作業療法士は平等なパートナーになり得るのでしょうか。その必要があるのでしょうか。

A.平等のパートナーということは、まったく同じ役割を果たすということではありません。宮前珠子監訳「クライエント中心の作業療法:カナダ作業療法の展開」(協同医書)の第6章でMary Lawさんが客と美容師の関係にたとえています。客は好みの髪型を注文する場合もあれば、とにかく似合う髪型とか、手入れに時間がかからない髪型を注文します。腕のいい美容師は、客の髪質や全体のファッションを考えて客が満足する髪に仕上げます。客と相談しながら、途中で髪型を変更することもあります。客が満足し、美容師も実力が発揮できたと思う仕上がりを目指すわけです。つまり、役割は違っても同じ目標に向かって、一緒に取り組んでいける関係です。
五味太郎の絵本「わにさんどきっはいしゃさんどきっ」(偕成社)という本(歯の痛いわには歯医者を恐れ、歯医者はわにを恐れているけれど、歯の治療を行い、その後わには歯磨きするという話)をWFOTに持って行って、Elizabeth TownsendさんとMary Lawさんに、わにと歯医者の関係をcollaborative partnershipだと思うかどうか聞きました。二人ともYesと即答でした。個人的にはお互いを好きでなくても、目標が共有できて、共に努力できる関係です。クライエントの作業上の目標を達成するためにクライエントと作業療法士はお互いがお互いを必要とする関係なのです。


Q.Occupational Justiceとは何でしょう。

A.人間はさまざまな作業をして暮らしています。作業をすることで生きがいや幸せを感じ、能力が発揮でき成長を続けることができます。でも世の中には、このような意味のある作業をすることができない人がいます。病気だからしてはいけないとされたり、障害があるからできなくて当たり前だとされたり、貧困、戦争、失業、隔離など作業をする機会を不公正に奪われている人々がいることに気がついていますか。人々が自分にとって意味のある作業ができるようになることを援助するための知識と技術をもっている作業療法士は、このような不公正な現状を打破する力をもっているはずです。作業療法士はこれまで、目の前のクライエント個人の目標達成や幸福に強い関心をもってきましたが、ありうべき社会の理想という発想は希薄でした。でも、作業と健康との強い関係を考えるとき、作業療法士の存在は、すべての人が作業を行うことによって、自ら健康を手に入れることができる社会を創造することにつながります。OTという仕事がこんなに大袈裟なものだとは思いもよりませんでしたが、Ann WilcockさんがイギリスOT協会から委託を受け一年間休職して書きあげた2巻の分厚い本(「Occupation for Health」http://www.cot.org.uk/public/intro.htm)をめくると、作業という視点から語られる人類の歴史や社会の問題が、新鮮に魅力的に見えてきます。