リラクセーションの実施法

精神障害者を対象に集団リラクセーションを実施する場合の基本的な方法を紹介する。


1.基本的な構造

グループのサイズ
言語的集団精神療法と同様に、8~12名程度が適切であろう。しかし、実施方法によっては1~30名程度も可能である。途中からの参加や退出を認めるオープングループシステムの場合、あらかじめグループのサイズを決めておくことが難しい。その際、セラピストはグループのサイズに応じて、臨機応変に対応していく必要がある。たとえば、参加者数が多い場合、アシスタントの配置が必要になる。また参加者数が少ない場合、個々の参加者にかかる負荷を考慮して、セッション時間を短縮するなどである。
グループ形態
オープングループまたはクローズドグループシステムいずれでも実施可能である。誰でも気楽に参加でき、参加者の心理的負荷が少ないことがオープングループの利点であろう。またクローズドグループは、メンバーシップが明確であり凝集性が高く、継続的なグループの発達過程が可能になるという点で有意義である。また集団で行なうことによって、ひとの集まりに所属した中でやすらぎ・くつろぎ・自分一人ではないという普遍的体験をし、グループに守られ受容されているという体験の場を提供する。
実施場所
十数名の人が、円形で簡単な運動ができる程度の場所(レクリエーションルームなど)。狭すぎるとリラックスしにくく、広すぎるとセラピストや参加者の声や音楽が聞き取りにくくなったり、グループの凝集性に影響を与えることがある。
また、安心・安全感を感じつつリラックスできるような環境を整える必要がある。外部からの音刺激の調整・ゆったりとしたBGM・部屋のライトを落とす等の工夫が助けになる。
時間と頻度
週1~数回。プログラムは、60分ほどのセッションと、セッション前後のスタッフミーティング、会場準備、グループ及び個々の参加者に関する評価記録の作成を合わせて2時間程度。セッションの実施時間は、対象者の病態や回復過程によって異なる。集中力を持続することが難しい患者や、高齢者などの疲れやすい患者を対象に行う場合、時間を短縮することもある。
スタッフ構成
リーダー1名、必要に応じてアシスタント1~数名。セラピストやアシスタントの性別 は、参加者にあわせ配置すると良い。たとえば、男女混合のグループでは男女のスタッフがチームを組んでセラピーを行ったり、男性のみのグループを女性のセラピストが担当する時は、男性スタッフにアシスタント役を引き受けてもらうなどである。
病棟単位のグループでは、当該病棟の看護スタッフ等にアシスタントとして参加してもらうと良い。患者はこのグループが治療スタッフに承認されていると感じ、安心して参加するようになる。
道具
その場で操作が可能な音響機器(CDラジカセなど)。
音源となるCDやMD:音楽は、音楽の「強い~弱い」「速い~遅い」は身体における「緊張~弛緩」と密接に関係しており、優しい、ゆったりとした音楽をかけながら行うことでリラクゼーション効果 が期待できる。
フーセン:ウォーミングアップとしての風船バレーを行うことで、グループ参加への抵抗を緩和する。ストレッチへの心身の準備性を高める手段として利用できる。
じゅうたん:参加者がゆったりと横になれるスペースの確保。
見学者や運動機能が不十分な参加者がいる場合、椅子席を用意することもある。
効果測定用紙。記入用のボード、鉛筆。


2.グループ(集団)で行うことの意義

●集団の中に紛れることで、注目される緊張感を軽減する。
●スタッフへの依存を強化しすぎない。
●他のメンバーが休めていることが「自分自身も休んでよい」という安心感や保障になる。また、モデルになる。
●集団の中でリラックスできる(休むことができる)体験が、治療グループに参加するための練習となる。


3.セッションの進め方

回復過程や、認知レベル、集団のサイズ、などによって実施方法は違うが、基本的なセッションの進め方を簡単に紹介する。

<プレミーテイング>
個々の参加者の様子や、その帰属集団(病棟やデイケア全体)での出来事を把握する。

<ウォーミングアップ>
円状に座り、グループ参加への抵抗を緩和し、ストレッチへの心身の準備性を高めるために風船バレーなどのウオーミングアップを行う

<オリエンテーション>
スタッフ、グループの目的、方法を紹介、説明する。
★心とからだのリラクゼーションが目的であること
★自分のペースで行ない、疲れたら休んでも・抜けても・戻ってきても・見学のみの参加形態でよいことを伝える。 (照明をおとす)

<リラクセーションストレッチ>
★ゆったりと深い呼吸を続けながら行うこと。
★無理なく行うこと。(ゆっくりと伸ばし、痛みを伴うほどに伸ばさない。)  
★伸ばしている部分に意識を向け、心地良い感覚を感じる。   

<つぼ押し、身体確認>
(仰向け) 自分の身体に触れることで、ありのままの自己(感覚、身体、感情)を認識し、自分自身をケアする体験を促す
★呼吸、体温を感じ、自分自身が生ある存在であることを感じる。
★自分自身の疲れ、痛みなどに気付く。
★自分自身の体をいたわる。

<イメージ導入>
安心してリラックスできる場所をイメージして、そこで休む。 イメージすることにより、より心身のリラックスをはかる。
★五感を使用し、イメージをより具体的なものにする。
★ 五感に集中することで不安を軽減する。
★ 現実に戻ってくること、戻れることを保障する。
★ 安心してリラックスできる場所であることを伝える。
★ 現実の環境とかけ離れすぎない。(天候など)
★ 病的体験を誘発しないようにする。

<マッサージ>
スタッフが一人一人を介助し座った姿勢に起こす。起きあがったら、肩のマッサージを行う
★ イメージの世界から現実世界への移行をスムーズに行う助けとなる。
★ スタッフに介助され起き上がり、マッサージを受けることは、直接的、現実的に他者にケア、holdingされる体験となる。
★ マッサージにより、首・肩の筋緊張を緩和する。
★ 患者の緊張状態を個別に把握する。

<終結のためのリラクセーションストレッチ>
現実生活にスムーズに戻れるよう、終結をしっかりと行う。
★ 開始前と比べて、こころと身体のリラックス度合いや変化を意識化する。
★ 急な動作による、立ちくらみ・転倒などに留意する。

<アフターミーテイング>
セッションのプロセスとその中で生じた患者の心身の変化について、アンケート結果 や印象・解釈等を共有し、必要な情報は治療チームに連絡する。