あゆみ(2000-2004)

2000-2004

近年、ノーマライゼーションという社会復帰の運動が起こってきて、社会復帰する人が多くなってきたのですが、現実には“社会復帰より社会参加だ”“自活ではなく自立だ”と思います。自分で稼いだお金で生活するのが自活なのでしょうが、それは現実には精神障害者にとっては無理で、障害年金または生活保護との併用という形で、自己決定権さえ認められれば自立出来る、いわゆる社会参加出来るのではないかと思います。

清水恒夫「就労しつつ社会で暮らすということ」精神科オキュペイショナルセラピ-. VOL.20, p53. 2001

関わっている人たち(私を含めて)が、無理に岩田さんへの理解や意見を一致させようとせず、その違いを率直に言い合いながら、今日まで来た面があります。手伝う側としては、お手伝いを有効にするためと考えて、一枚岩になるのが良いと普通は思い込みがちですが、しかし一枚岩を目指すとどうしても、誰々さん任せ、医者任せとなりやすいと思います。岩田さんが「色々な人生があって良い、色々な人間がいて良い」と感じ思えるようになりつつあるとしたら、手伝う側が“それぞれの立場で正直に接しつつ繋がっている”という形の援助が出来たからかも知れないと考えています。
病院とか職場にこもっている我々より、病みつつ、自分について、相手へのサポートについて、地域や社会のあり方について、一生懸命話し合いを重ねているあなた方の方が、余程社会復帰していると思うなあ…。

「自分の体験から医療スタッフにお願いしたいこと、言いたいこと」37回全国研修会での岩田さんのお話に対し、主治医から添えられた言葉:精神科オキュペイショナルセラピ-.VOL.21, p31. 2002


世紀の変わり目、私たちもこれまでを振り返り、新たな目標と展開を求めてあゆみ始めました。
病院での長い療養生活から離れ町中で暮らし始める人たちがふえ、私たちの研修の場でその貴重な体験を、ある時は支援者や仲間と一緒に語ってくれるようになりました。仲間同士の支えあい(ピアサポ-ト)、支援者の姿も目の当たりにする機会がふえ、私たちはそれぞれの働く場で、仕事のあり方、当事者との、また他の支援者との関わりのあり方の再考の時代となってきました。
さらに“活動”という、私たちと当事者との接点にあるもの、実践の核になる部分についての再考が求められ時代の幕開けでもあります。広島での研修会(2000年)で吉川ひろみ氏はCOPMを、兵庫での研修会(2002年)では大川弥生氏は「活動再考-国際生活機能分類からの考察」という講演の中で「しているADL」ということを、さらに大橋秀行氏からは「リアルオキュペイション」という捉え方が外国で見られるとの報告がもたらされました。いずれもリハビリテーション専門医や作業療法士により、新たな視点や方法が提示されてきたわけで、それぞれの日常実践に照らして検証し、深める手がかりとなりうるものでした。
一方、精神病院に働く作業療法士が深く関与した診療報酬不当請求(診療録改竄)事件など、あってはならない事件も発生しました。医療の場にある者の置かれている現実の厳しい状況、その中でなんとか患者一人一人に見合った必要な支援をと、様々な知恵と工夫努力があることを強く思うとともに、いっそう心を引き締めて現実の課題に対処していかなければならない時代です。
2001年、小泉内閣発足後の構造改革路線の中で、政府のスリム化、行政の効率化が求められ、国立医療機関や教育機関の統廃合、独立行政法人化が加速。また池田小事件などそれまでに見ない犯罪の現出する世情の中で、心身喪失者医療観察法案が国会に上程されました(2002年)。その受け皿となる医療の場の整備が一部ではすでに進められており、そのリハビリテーションスタッフの一人として作業療法士への役割期待が生じています。この法案は私たちとも関わるもの、その趣旨や内容に関心を持っていかなければなりません。
分裂病から統合失調症へ病名の呼称変更が、日本精神神経学会(2002年)により提起されました。
長期在院患者、ことに社会的入院と目される患者への積極的な取り組みに国も腰をあげ、2003年には社会保障審議会精神障害分会の報告書を受け、社会的入院と目される7万2千人の解消を目標にする取り組みに着手しました。そこでは高齢者や他の障害者への施策との統合、障害者プランの策定、ケアマネジメント、地域支援のノウハウを含め、新たな試みへの動きが生まれています。
医療経済の面からも、早期の効率的医療の展開が求められ、慢性経過をたどる人達は、介護サービスや福祉施策を引き寄せて支えられないかが検討され、各地の病院では退院の促進、急性期あるいは専門医療への転換が加速されてきています。新薬の登場など薬物療法の展開により病態も変化し、社会的にはうつ病、パニック障害、注意欠陥多動性障害、性同一性障害、中毒性精神障害など、従来慢性の統合失調症に主な焦点があてられていた作業療法も多様な病因、病態の人々、新たな対象者への対応が求められるようになりました。精神医療の役割、精神医療のあり方の再構築の時代、地域での身近な受け皿としてクリニックが各所に開設されてきています。
私たちの研修会(2003年、2004年)では、精神障害者の地域での受け皿の魁となる場と支援を開拓された経験を、谷中輝雄(やどかりの里)、藤井克徳(あさやけ作業所)の両氏からうかがう機会を得ました。新世紀の私たちのあり方を導く上でよい指針が得られたのではないでしょうか。地域で障害を抱えて暮らす障害者の増加は、当然、当事者をとりまく家族も増えてくるわけであり、当事者へのサポートとともに家族へのサポート、ひいては地域社会全体の障害者をとりまく状況への関心と関与も視野に入れた、よりいっそう社会的な仕事の展開が望まれる時代です。
会自体は、新規約(1999年度総会承認)にもとづく事務局会議、地域連絡員の設置などが機能しはじめ、従来の一部の担い手による運営から開かれた運営に大きな変革をとげ、日常の事務局機能も役員間で前向きに担われるようになり、ホームページの開設などインターネット機能の導入が図られ、会計、会議録や公文書管理の体制も整えられました。そしてそれぞれの役員の業務をサポートする会員もみられています。


新たなる作業療法の展開を 2000. 8 広島
21世紀の作業療法-本人の決定を支える 2001.7 東京
臨床の理想と現実 2002.7 兵庫
ぼくたちは何がしたいんだろう 2003.9 埼玉
作業療法のつながり・拡がり 2004.9 東京

精神科作業療法協会全国研修会メインテーマより


自分達の手で会を担い育てるという色合いが増してきたことは、全国研修会の姿に端的に見る事が出来ます。2000年、広島で示された開催地会員の積極的な取り組みによる集いの在り方が、その後の兵庫、埼玉、東京での全国研修会へ受け継がれ、実践に即した研修テーマの掘り起こしと展開、のびのびした自らの手で創造する集いが実現しつつあります。
こうした状況の下、急増する会員との関係性の再構築、法人化、財政強化など運営基盤の確立が課題として浮上しています。あわせて急激な時の流れの中で、それぞれの実践の場の中で、自らの仕事の位置や業務への情熱を見失わないように、交流と研鑽を深める機会がますます大切になっています。
ともすると、ある特定の領域に関わる者の集まりは、その業界とそこに従事する者の利益追及、社会的評価の向上に囚われがちです。
私たちの集いは医療と福祉の両面に幅広く関与する実践者集団です。学際的な交流、異業種交流などが言われているように、専門性の殻の中にすべてを還元しつくしてしまうことのない、閉じこもらない態度で実践に研究に臨んでいきましょう。
新世紀の幕開けとともに時代の流れは急です。
この時期、ともすると道が見えない不安にかられるかもしれない。目の前の当事者の立場に立って、その願いや思いを受け止め、生き方に学びつつ、希望を持って一歩踏み出してゆこうではありませんか。


文責:淺海 2004