居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書

居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書

東畑開人


本書は理想に燃えた新米臨床心理士である「僕」が沖縄の精神科デイケアに(高給につられて)飛び込み、そこでの体験を通じて「ケアとセラピーの概念」や「ただ、いる、だけ」のことの意味、脆さ、そして守られるべき性質を明らかにしようとするスペクタクル?学術書である。本書はデイケアの個性豊かな登場人物たちの劇的だが静かに変わっていく日常が作者の軽妙な語り口で描かれている。読んでいると、まるで物語やエッセイのように思ってしまうが、これは作者の苦心の結果であることが本書の後半に明かされる。すなわち、ケアの場には学術論文の堅い言葉では掬い取ることができなのできない営みの価値が含まれているのではないか、臨床現場での営みの価値はエッセイ的にしか書け得ないのではないか、だからこそ臨床的に学術的に軽視されてきたのではないか、という思いである。

臨床での自身の在り方に「本当にそれでいいのか?」と悩んだことがある方にぜひ読んでいただきたい一冊である。