COPMニュース 第16号

発行日:2006.1.5 発行者:吉川ひろみ
県立広島大学保健福祉学部 〒723-0053 三原市学園町1-1
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あけましておめでとうございます。今年の年賀状には、犬の写真が結構あって「この人の家にも犬がいるんだ」と思い、楽しかったです。猫年がなくて残念だと思いましたが、猫の写真は毎年見るので、猫好きの人は干支など関係なく自分の猫の写真を送ることにも気づきました。犬は正面を向いて、くっきりした顔を見せていますが、猫は寝てるか、何かをする途中のような格好をしています。デジタルカメラやプリンターの普及で、年賀状が視覚的になりました。テクノロジーは、私たちの作業を変えますね。

昨年12月のCanadian Journal of Occupational Therapy(72巻5号)は、成果(outcome)の特集で、COPMを使った論文が4本掲載されています。巻頭言でCatherine Backmanが、健康におけるOTの効果を調べようと、健康に関する研究を読んでいた時に、多くの論文で生か死かを指標にしていることに違和感をもったと述べています。私にも同じ経験があります。膨大なデータを基に何年後に誰が死に、誰が生きているかを調べることで、健康の条件を探ろうという論文を読んだ時です。死なないまでも病気や障害になる人は、どんな人だったか、どんな生活習慣だったかを調べることで、それをしないことが健康への処方箋になる(太り過ぎるな、タバコを吸うな、など)という論理です。Backmanは生か死かといった考えが、OTにはフラストレーションになると語っています。OTの成果は、死なないことや病気や障害にならないことではないからです。OTの成果は自分がしたいことや、する必要のあることが、満足いくやり方でできるようになることです。1990年当時には、このようなOTの成果を表現できる評価法がなかったので、開発されたのがCOPMでした。Backmanは成果と評価法の順序を間違えるなとも主張しています。評価法で測れたから成果があったのではなく、まず実際に成果があるはずで、次にその成果を測る評価法を選び使うべきだというわけです。

では、論文4本紹介します。

「小児・青年のための家と地域でのOT:前後研究」(Mary Law他)
2001年から2年間にカナダ2州にある8ヵ所のセンターを利用し、3回以上OTを家と地域で実施した障害をもつ18歳以下の175名を対象に、OT開始時と終了時あるいは6ヵ月後に、OTの効果を評価した。作業遂行上の効果として、COPMで遂行スコア、満足スコアとも平均2.5点向上した。QOLの変化として、Pediatric Quality of Life Inventory(PedsQL)の身体機能と学校での機能が有意に向上した。OT実施回数と成果との関連は認められなかった。OT実施5回未満でもCOPMスコアは平均2点以上向上した。

「COPMの狙いを定めた使い方」(Mary A. McColl他)
COPMは、初版から15年を経て24ヵ国語に翻訳され、35ヵ国以上で利用されている。COPMを使うための条件は、作業療法士がクライエント中心の実践をすることと、作業遂行の評価に関心を持っていることだけである。この論文ではCOPMを使う上での議論について述べている。まず、クライエント中心の実践にまつわる問題で、内容の信頼性や治療者―患者関係、リスク管理の問題がある。次に保護者や介助者に面接する場合の問題、3つ目に面接技術の問題、次に保険会社など第三者支払い機関が絡む時の問題、5つ目にクライエント側の準備ができていない時の問題、6つ目に注意や記憶障害がある場合、最後に病気や障害の捉え方、家族や治療者への期待など文化の問題について述べている。さらに、監査書類や集団での実施の場合など管理上の問題についても述べている。結論として、この論文ではクライエント中心の実践におけるCOPM の柔軟性と適応性の高さを論じた。COPMの限界は作業上の効果しか示せないことだが、これはほとんどの作業療法士にとって受け入れられない限界ではないはずだ。

「学習障害児用作文補助機器(word cueing)の成果測定」(Tan Cynthia他)
小児リハセンターの書字用自助具外来に通う19歳以下(平均11歳)の29名を対象に、WordQというword cueingのソフトウェアを紹介し、開始持と3ヵ月後にCOPMで評価した。遂行スコアは平均3.5点、満足スコアは平均4.5点向上した。COPMは補助機器の効果を示すことができる。

「視覚補助機器におけるCOPMの利用」(Linda S. Petty他)
視覚障害者の補助機器の効果を示す評価法としてのCOPMの長所と短所を論じる。COPMなしでは、年齢や視力だけでステレオタイプのプログラムが提供されがちだと指摘し、作業の問題から入ることで、必要で適切な補助機器を紹介することができると述べている。一方限界は、COPMの結果は特定の機器の評価とはならないことである。COPMでは、どのメーカーの機器が優れているかを評価するのではなく、ある機器をどのくらい練習してどう使ったら、遂行と満足が向上したかを評価することができる。


去年の11月、東京国際女子マラソンで優勝した高橋尚子さんがインタビューで「今、暗闇の中にいる人や悩んでいる人も、どうか夢を持って一日を過ごしてください。一日だけの目標でも三年後の目標でも、何でも目標を持つことで、一日が充実すると思います。小学生や中学生はもちろん、三十代そして、中高年の皆さんにも、二十四時間という時間は平等に与えられたチャンスの時間です。二度と来ない、この一日の時間を精一杯充実した時間にしてください。」と言ったのを聞いて感動しました。OTを前に進める力になるのは、希望や可能性だと痛感していましたが、人生を先に進めるのも夢や目標だと確信しました。12月の全国研修会(大阪)でシンポジストの一人である姜博久(カンパック)さんが「障害の克服よりも、やりたいことを続けるために体を長持ちさせることを考えてほしい」と言っていたのも印象的でした。「できない(disable)」から「できる(enable)」へ、視点の転換が必要です。また、カンさんが「自分が望む生き方をするために必要なことを身につける」ことが大事だと言っていたのは、OTのトップダウンアプローチと共通する見方だと思いました。さらに、「障害者に何かしてあげたいと思う前に自分が当たり前にしていることを思い起こし、それを障害者がしてもいいと思えるかどうか」と問いかけました。これは、1995年のカナダOT学会でのBonnie Sherr Kleinの講演内容と重なります。「何をする場所においても障害者がしていないことに疑問をもってください・・・疑問をもち始めたなら何かが起こるでしょう。個人的に私たちを知るようになるのです。単にクライエントとしてではなく、人類の仲間として」(「作業療法の視点」序文p(17)より)

最初にここを読んだときと同じように、頭を殴られたようなショックの後、胸が熱くなりました。


12月3日、私が作業科学セミナーで浜松にいた時、母が庭で転倒し、近所の方に病院へ運んでもらい、左坐骨骨折で20日間入院しました。娘の私はその日の夜に帰宅し、病室で謝る母に謝らなくていいと言い、作業療法士の私はベッド枠に小物置き用の箱やティッシュ箱を括りつけました。解剖学や運動学を学んでいる私は痛みの少ない姿勢の変え方を母と一緒に探しました。左中指基節骨の端も骨折していましたが、関節面に接してないから指を動かすようにと主治医に言われたので、手話の指文字を教えました。退院してからは、車いすで過ごしています。入院中は「(転ぶのが嫌だから)もう何もしない」と言っていた母ですが、料理や猫の世話など、できそうなことはどんどん始めています。言葉だけを信じてはいけないと思いました。編み物は、「初めは痛かったけど、これは左手のリハビリになると思って」と自分が発見したように話しています。

手段としての作業療法も健在です。母は不自由さを抱えながら、自分らしい作業で生活を再建中です。


【お知らせ】
*今年のOT学会(京都)では、OT協会国際部でワークショップを計画しています。また、EBOTのワークショップも申請しています。もご覧ください。
*県立広島大学大学院(修士課程)で、作業科学の研究指導をしています。入試は9月上旬の予定です。