回復過程に応じたリラクセーション

精神障害者のリハビリテーション治療は、病態や回復の程度に応じて、様々な活動内容や治療形態を適用しながらすすめられる。リラクセーションでも、患者の回復過程に沿った構造化と介入を行っていく。


1.急性期のリラクセーション

入院直後の急性期においては、疾病や病的体験からくる生物的‐心理的刺激や、入院による環境の変化や家族との別 れなどの社会的刺激などの過剰なストレッサーにあい、ストレスレベルがかなり高い状態にある。
こうした入院して間もない急性期患者を対象にリラクセーションを行うことは、ストレス反応を軽減し、こころと身体のリラックスを図ることは、ストレス脆弱性モデルから考えても経過の改善に寄与する上で、適切な薬物療法とともに重要な意味を持つ。
また、リラクセーションテクニックは一工程ごとのリーダーの指示によりリーダーを模倣する単純な受動的身体活動であり、エネルギーの消費が比較的少なく、メンバー間の対人交流が必要ない為、急性期からの導入プログラムとしても適している。この参加者にとって無理のない非言語的な身体活動を通じて、自分のこころと身体を確認し、現実感を体験できるように導く。
自ら心地良い感覚を得られるよう、身体をコントロールすることは、探索行動であり、その結果 心地良い感覚を得ることにより主体的な回復体験につながる。この「自分の回復に役に立つ」という体験が、その後の治療にも影響する。


<構 造>
1. グループの形態とサイズ
参加者に負荷が少ないよう、セッションの途中でも参加や退出が可能なオープングループが適当であろう。したがって、参加者数もセッション中に増減があり、グループのサイズもあらかじめ決めておくことは難しい。
2. 実施場所
グループの周囲にいくつか椅子を置いておき、見学や座ったままでの参加、途中休憩も可能にする。
3. 時間と頻度
週1~2回、セッションそのものは45~60分程。患者によっては45分間活動に集中するのが難しい場合もあるので、疲れたら途中で見学者席に着いて休んだり、途中から参加したりと、参加者の状態やニーズに応じてグループを利用できるよう配慮し、毎回、「心とからだのリラクゼーションが目的であること、自分のペースで行ない、疲れたら休んでも、抜けても、戻ってきても、見学のみでも良い等のグループの枠組みを」伝える。
4. スタッフ構成
グループの安全の保障と、支持的な雰囲気作りが不可欠である。そのためリーダーのほかに1~2名のアシスタントが加わり、他の参加者に比べ混乱していたり、協調的に動くことが難しい参加者に対して個別 の援助を行うことが必要である。但し、患者数に比べスタッフの数が多すぎて参加者を圧倒することのないようにしなければならない。
5. 道具
「基本的な構造」で述べたものに順ずる。

<実施上の留意点とコツ>
・オリエンテーションの重視
(セッション時のみではなく、病棟ミーテイングや放送やポスターを利用し、セッション開始前にも毎回オリエンテーションを行う)
・グループの目的、ルール、流れなどの枠組みを明確にし、安心・安全感の保障に留意する。
・ 参加を強要しないが、いつでも受け入れる体制があることを伝える。
・ スペース、居場所の確保。円座での実施が適している。
・ 陽性症状が強く非現実的な知覚に左右されがちなものも多いため、セッション中にそうした体験を誘発するような介入は避けなければならない。じっと目と目を見詰めたり、目を閉じ続けるような場面 は避けるべきで、原則としてイメージ法(瞑想)は、使用しない。
・ シンプルな言語介入とシンプルな動きを使用するよう留意する、リラクゼーショングッズや資料は基本的には使用しない。受動的な参加形態でよい。
・ 動きやストレッチの正確さを求めすぎない。感覚は本人の主観、体験、感覚であるので、本人が気持ちが良いと思うようなやり方を尊重優先し、保障する。身体感覚の個別 性を許容する声賭けが必要。
・ 頑張りすぎ、無理しすぎ、力の入れすぎ、無呼吸にならないよう留意して、声かけをまめに行う。
(ED、従順、社会的役割があった人、身体技能が高かった人、プライドが高い人が、頑張りすぎる傾向あり)
・ 侵入的にならないよう配慮しながら、受容的かつ支持的に接するよう努める。
・ 集中力の低下、不安感が強い場合、起こっていることや刺激に関して、セラピストがそれを言語化してあげることも必要。
・ セクシャルな雰囲気にならないよう留意する。

2.回復期のリラクセーション

回復期は社会復帰を目的とし、自律的な活動に取り組む時期である。活動性が高まり、社会的な関わりが増える。しかし、自律に伴い、現実的な自己認識を求められ、病気という現実を見つめ、葛藤し挫折感を味わう時期でもある。この退院への焦りや不安、疾病に伴う喪失感等の言葉にすると辛くなるような心理‐社会的ストレッサーによるストレス反応を、リラクセーションテクニックで軽減する。
また、受動的なリラクセーション体験から、より自律的なリラクゼーションテクニックの使用を可能にするため、病室や外泊中、退院後も自分のストレス反応に対してさまざまなリラクセーションテクニックが利用出来るよう、資料やリラクセーショングッズを用いてストレスそのものや対処法に関する情報提供を行い、そのストレスの原因になっている問題に対しての具体的な対処技能を身に付けるために、問題解決技法や心理教育、SSTなどの対処技法を使ってワークすることもある。
これらによって、参加者が、主体的にストレスに対処できる可能性を増すことが出来るように、アプローチしていく。


<構 造>
1. グループの形態とサイズ
8~12人程度の参加者によるクローズドグループあるいはオープングループ。
2. 実施場所
参加者が安心して深い感情を吐露し、セッションに集中できるような場所が望ましい。
3. 時間と頻度
少なくとも週1回、セッション自体は45~90分程度。
4. スタッフ構成
リーダー1名。必要に応じアシスタントが加わると良いが、スタッフ数が多すぎて、保護的になりすぎないよう注意が必要である。

<道具>
「急性期のリラクセーション」の項で挙げたものに加え、アロマオイル・ハーブテイー・などのリラクセーショングッズ。薬物との兼ね合いや、アレルギー、使用量 などに留意する。 情報提供、心理教育、問題解決技法などで使用する資料。

<実施上の留意点とコツ>
この時期の患者を対象にしたリラクセーションでは、先に延べた通り参加者の自発的な表現に基づき、自律的にグループが展開されることが望ましい。
・スタッフは強いリーダーシップを発揮するよりはむしろ黒子役となって、参加者の自発的表現を促し、自律的なグループの発展を支持する。
・ 受動的なリラクセーション体験だけではなく、ストレスを自ら主体的に対処する可能性を増すことが出来るよう、情報提供や対処技法を用いたワークを行う。
・ 情報提供や対処技法を用いたワークを行った際は、必要なときに参加者が後で見直せるように、資料にして配っておく。
・ 日常生活の中で、活動と休息の適度なバランスが大切であることを強調する。
・ リラクセーションテクニックでは「休む場である」という目的を明確に伝え、マイナスに捉えられがちな「休むこと」を保障される体験をする。
・ リラクセーションテクニックを使うと「休める」という体験をセッションで実感してもらうことを通 して、生活の中でも使えるようモチベーションを強化する。

3.維持期のリラクセーション

精神障害者の中には、陽性症状のコントロールに悩まされたり、陰性症状に沈み活動性が低く無為自閉的生活になりがちなため、生活の安定性の維持を目的に長期にわたって医療施設を利用するものもある。また、環境因子の影響で、本来なら入院している必要のない方が「社会的入院患者」として、長期にわたって医療施設を利用せざるを得ないという社会的ストレッサーの影響を受けているものも多い。
そうした患者にとってあまりにも長期の入院生活,社会とはかけ離れた時空間の中で,回復・復帰への現実的な希望と目標は見失れがちであり、患者は孤独の中で自己身体をいたわる感覚すら低下している場合もある。
回復期で述べたリラクセーションテクニック、情報提供、対処技法と併用して、身長・体重・体脂肪・血圧などの健康チェックを行い、自己の身体に関心を向け、運動プログラムや食生活改善プログラムも実施することが多い。


<構造>
1. グループの形態とサイズ
参加者に負荷が少ないよう、セッションの途中でも参加や退出が可能なオープングループが適当であろう。ただし、参加の継続性が保障され、レギュラーメンバーが尊重されるような雰囲気作りがのぞましい。
2. 実施場所
慢性患者の中には、疲れやすいものや高齢のものが少なくないので、グループの周囲にいくつか椅子を置いておき、座ったままでの参加や途中休憩も可能にすると良い。
3. 時間と頻度
週1~2回、グループそのものは約45~60分程。疲れたら途中で見学者席に着いて休んだり、途中から参加したりと、参加者自身が自分で活動量 をコントロールし無理なく楽しむことを支持する。
4. スタッフ構成
グループが参加者にとって馴染みの場所となるためには、リーダーのほかにアシスタントも毎回同じスタッフが参加すると良い。1~2名のアシスタントが加わり、他の参加者に比べ混乱していたり、協調的に動くことが難しい参加者に対して個別 の援助を行うことが必要である。
5. 道具
「回復期リラクセーションテクニック」の項で挙げたものに加え、 健康チェックリスト。

<実施上の留意点とコツ>
・ 健康チェックリスト(身長・体重・体脂肪・血圧など)を利用し、日々の生活の目標や自己身体への関心すら失いがちな長期入院慢性患者に対して,自己身体に関心を向けてもらう。
・ 自らの心身への働きかけによって、「変化しうる自分を知る」体験を意識化してもらう。
・ 情報提供は、季節感のあるものや、健康維持・管理の方法なども利用する。(ゆず、菖蒲湯、風邪対策、花粉症対策など)
・ 長期の疾病,長期服薬,加齢などによる身体機能,自己認知,感覚の低下を考慮し、身体的負荷をかけすぎない