あゆみ(2005-2013)

NPO法人化なる!法人化に伴う組織の改編と充実障害者自立支援法の成立退院促進・地域支援へのシフト病院内の変化・急性期医療と高齢化への対応当事者中心のアプローチ就労支援事業部の発足とその活動停止(2005年~2012年)東日本大震災国の動きと管理運営研修会これからへの課題と期待


2005年は、POTAにとっても精神医療保健福祉分野にとっても歴史的な年となりました。POTA(旧精神科作業療法協会)は2005年6月正式に「NPO法人」として生まれ変わり、障害者施策では「障害者自立支援法」が10月に成立するというまさに歴史の大きな節目の年となったのです。


2005-2013

特定非営利活動法人POTA設立趣旨書
精神科作業療法協会においては、1965年1月以来40年間にわたり精神科医療の現場を中心に精神障害者の社会復帰を促進するために、基本的な考え方及び具体的な方策について検討、研修を進めてきた。そして現在、会員数400名を超し、その役割に対する期待もこれまでになく大きくなっている。
わが国の精神保健医療福祉の動向を見ると、入院中心の精神医療から、地域リハビリテーションへの転換が確実に進行している。しかしノーマライゼーションの考え方を踏まえ、当事者主体のリハビリテーションを進めるためには課題も多い。
当協会としては、これまで病院・施設内の比重が大きかった精神科作業療法を、地域での社会生活支援にも重点を置いていくことが求められており、またその対象領域も医療にとどまらず、保健・福祉分野まで裾野を広げ、作業療法の視点から精神保健医療福祉の充実を一層図る必要がある。
以上の活動を行うにあたっては、まず、社会的に正式に認知された団体としての社会的・経済的基盤を整える必要があると考える。その上で、非営利団体としてこれまでの実績をもとに、会員のみならず精神障害者、あるいは地域社会に対し更なる貢献をするものとする。

平成16年度総会 議案集より


1965(昭和40)年1月30日精神科作業療法協会の設立総会がもたれたのは、都立松沢病院のピネルの人間解放の図の掲げられている会議室であったとのことです。それから40年間の歩みを経て、発会当初55名であった会員数は440名以上、3日間に及ぶ全国研修会は300名を超える参加者で開催され、上記の設立趣旨書の下に「特定非営利活動法人POTA」として新しい歩みを進めることになりました。法人化に向けての具体的な尽力は事務局の水堀氏に負うところが大きかったと思います。


NPO法人化なる!

昨年の総会(第40回記念大会にての平成16年度NPO法人設立総会)にて承認されましたNPO法人化に向けて、その後何度も東京都の担当部局と折衝を重ねて参りましたが、ようやく申請書類の閲覧期間も終わり、法務局への登記をすませ、去る6月23日付で正式に認可されました。思いのほか手続きに時間と労力を要しました。しかしこの期間は任意団体としての甘えから脱却し、法人としての自覚と責任を次第に感じさせられる期間であったように思います。今後は「特定非営利活動法人POTA」という正式名称になり、これまでの任意団体としての精神科作業療法協会は発展的解消となり全てのものがNPO法人に引き継がれ新たな出発をすることになりました。
法人化を契機に、これまでの相互研鑽交流の場としての機能を継承発展させていくと共に、それぞれの知見や経験を生かした私たちらしい社会的な活動、「公益」を目的とした活動、例えば精神障害者の就労や生活支援というような当事者に対する直接的な事業も手がけていくこととなります。このことによって、より実践的な情報を会員の方にお伝えすることが出来るばかりでなく、この実践を各地に広げより多くの対象者の方に利用して頂くことも出来ると思いますし、更にいろいろな形で「作業療法を実践する立場の人」と「作業療法を享受する方」ともPOTAを活用していただけたらと願うものです。


文責:水堀義則・2005.7.31発行POTAニュースより


法人化に伴う組織の改編と充実

そして、NPO法人移行に伴う様々な組織の改編、充実化が行われました。まず、会則の改廃(従来の精神科作業療法協会会則の廃止、特定非営利活動法人POTA定款の発足)、財政面の立直しとして会費及び入会金の値上げ(年会費3,000円→5,000円、入会金500円→2,000円)、事務局体制の充実と円滑化、公益事業としての就労支援事業部の発足。ホームページのリニューアル、ロゴマークの制定といったように、看板も内実も新たなスタートを切ったわけです。
そして、記念誌の発行もその一つと言えます。第40回全国研修会の内容は、機関紙「精神科オキュペイショナルセラピー」2005VOL.24に集約されていますが、その特別記念号発行そのものが大きな事業でもありました。運営委員たちの壮大な希望が込められているメインテーマは「作業療法のつながり・拡がり」。当事者発言、膨大な資料を基にした精神医療保健福祉の動向、チーム医療を考える看護者からの講演と討論や他職種を交えたシンポジウム、先輩による40年間の歩み、いくつもの貴重な実践報告、家庭と仕事の両立を考えるランチョンセミナー、近隣の施設見学ツアー、そしてNPO法人化に向けて公益的活動でもある初めての市民公開講座。運営委員代表・竹中氏がその挨拶文で述べておられるように、記念大会にふさわしい充実した多岐にわたる内容で、当日だけでは消化しきれるものではなく、記念機関紙の発行の意味は大きいといえます。「先輩一人一人の汗を思いつつ、会員が心を一つにして育み続けてきたPOTAの歴史がここにある」と、篠崎氏がその重みを感じながら、と書いている編集後記にも表れています。
その後、POTAニュースは担当者により編集会議がもたれ、それも最近ではWEB会議、きれいなカラー版ともなり、内容もさらに充実してきて、その時々の話題や課題、最新情報、実践報告などが掲載されています。昔のニュースの味わい深さに重ね、新しい立派な紙面を見る時に、名実ともに会が改変されたことを実感し、時代・時の流れを感じます。


障害者自立支援法の成立

POTAの法人化と並行するかのように国の動きとして、2004年の「改革のグランドデザイン」を踏まえて、障害者自立支援法が2005(平成17)年10月に成立しました。精神障害も含めた3障害を一元化した福祉サービスの提供、障害者の地域移行や就労支援の強化、サービス利用手続きの透明化・明確化などの特徴が挙げられます。就労移行支援、就労継続支援、グループホーム・ケアホーム等の位置づけ等、この大きな法律の制定は、それからの障害者施策にとって様々な影響があったことは言うまでもありません。
精神障害分野では、もう一つの大きなこととして「精神分裂病」から「統合失調症」へ病名の呼称変更が日本精神神経学会により2002年に提起され、全国的にその浸透と具体的変更手続きが進められていましたが、2005(平成17)年に法的にも改正されました。病名があまりに人格否定的であって本人にも告げにくい、病気への無理解と偏見の基となっており当事者の社会参加を拒んでいる等の指摘がされていたわけですが、呼称変更がインフォームド・コンセントを可能にし、その後の当事者中心の動きや精神保健医療福祉の改革へと繋がっていくものといえます。
一方、2003年に成立していた「心神喪失者等医療観察法」が2005年7月に施行されました。それは否でも地域支援の在り方が問われることで、そうした意味でも2005年が精神医療保健福祉の転換点の年として記憶に刻まれざるを得ません。


退院促進・地域支援へのシフト

それらを背景に、第41回全国研修会(NPO法人化後、初)のテーマは「Back to the Community」。時のうねりの中で私たちPOTAも全身全霊で地域支援に向き合おうとしているように感じます。
メインテーマに沿った野田文隆氏の講演では、10年間で400名以上を退院に導いたという精神科リハビリテーションの多角的なチーム実践が話され、認知行動療法的教育プログラム、カンファレンスの持ち方、地域とのリエゾン的援助等々、すでに取り組まれつつある退院支援への示唆に富むものでした。同時に、いくつもの退院支援への関わりの実践報告があり、その中でも地域の中での実践としてACT:Assertive Community Treatment(包括的地域生活支援プログラム)の紹介は、刺激的で注目を集めるものだったと思います。
ACTとは、重度の精神障害を対象に包括的で地域に密着した支援を提供するサービスモデル。個別のニーズに合わせた訪問(アウトリーチ)による生活の場でのサービスで、治療・生活・就労など多岐にわたる24時間体制でのチームアプローチ等が謳われています。報告者の相澤氏からは「健常者と障害者のどこが違うのかではなく、また、どこが問題かよりも、どこが私たちと一緒なのかというスタンスを持った方が良い」といった発言をはじめ、地域に出て思い知ったこととして病院内でとらわれていること、諦めてしまっていることについても指摘されました。地域へのシフトが徐々に始まっている中で、認識の視点を変える必要があるのだと感じました。
精神障害者が地域で生活を継続するために、デイケアや就労支援施設、地域活動支援センターなどは欠かせないものとしてあります。そこでも作業療法的視点や関わりが活かされ、その役割の拡充を目指す必要もあると思いますが、それらと併せて重要なアプローチに「精神科訪問看護」があるでしょう。診療報酬点数も575点と高くなって、その比重は大きくなってきています。医師の指示箋の下に実施される医療的ケアの一環であり、ACTのアウトリーチとは多少理念や位置づけも違うと思えますが、作業療法士も訪問の職種に加えられ、今後地域支援で活躍できる場面として重要になってくると思います。当会でも学術調査部では「訪問」に関するアンケートを実施(2010年)して、その動きに注目しています。 精神科病院内に目を向けると、研修会の実践報告にもあるように、退院促進・地域移行の動きも加速してきたように思います。地域の行政と協力して進める退院促進事業(2012年からは地域移行支援事業)が、全国的に展開されてきています。また、関わる対象も統合失調症だけでなく、気分障害や神経症圏、人格障害などの精神疾患にも及んできたことは、全国研修会や就労支援研修会でうつ病がテーマとなり、作業療法研修会では神経症圏・人格障害へのアプローチ「弁証法的行動療法(DBT)」も取り上げられていることからも確認できましょう。さらに具体的なアプローチとして、作業活動やプログラムの中に以前から取り組まれていたSSTをはじめとする認知行動療法や心理教育も盛んになってきたことが、やはり全国研修会の報告やポスター発表でうかがい知ることができます。第47回全国研修会(2011)では、心理教育が対象者別のバリエーションをもって、さまざまに実践されていることが草津病院の例として報告され、そのユニークさは興味深く高い関心を集めていました。これからの作業療法実践の方向の一端が窺えるものと思いました。心理教育でのストレスマネージメントという言葉も臨床場面だけでなく、一般にも浸透していることは精神保健全体の広がりともいえるのかもしれません。


病院内の変化・急性期医療と高齢化への対応

急性期医療と地域支援は車の両輪、病院内のアプローチは地域との連携が必須と言われますが、精神科急性期治療病棟を認可された病院は、2008年末には全国で約190か所。施設基準や医療費給付の面で精神科急性期治療病棟をしのぐ精神科救急入院料病棟(いわゆる「スーパー救急病棟」)が2002年に診療報酬上に新設され、スーパー救急病棟を持つ病院も都市圏を中心に増えてきています。当然、作業療法の在り方も変化してきているわけです。クリニカルパスという用語も使われるようになり、他の身体疾患と同じようにいつごろどのような治療が行われるのかという治療上の地図(指針)を患者にも示し、入院の短期化を図り無駄な長期在院を防いでいこうとする動きが急性期病棟の誕生とともに導入されるようになりました。地域間の違いはあるでしょうが、院内の動きも目まぐるしく回転するようになった臨床現場も多いことでしょう。一方、対象者の二極化が言われて久しく、社会的入院の問題に対しては、退院促進が進められていますが、高齢化に伴う様々な問題ゆえに退院促進の対象から外れ、将来的にも病院の中で人生を終えざるを得ない人々も多いのが現実です。作業療法研修会(2012)では「長期入院患者と老いの世界」とのテーマで、その現状の理解と支援の方策について考える機会を持ちました。今ここで、急性期・回復期・維持期・緩和期と各回復段階を明確に意識した対応、サービスが求められて来ているのではないでしょうか。
こうした動きを作業療法現場での変化としても読み取るために学術調査部では「プログラム開始や廃止に関するアンケート」(2009年)を実施し、その結果を報告していますが、以下はその要約です。


回収率は低かったものの、開始プログラムや今後導入予定のものなどから、全体傾向として入院医療から地域移行の流れを反映したものが目立ち、心理教育的なプログラムが作業療法の役割として求められていることがアンケート結果でも裏付けられたといえます。もう一つ大きな傾向として身体機能に関連したプログラムが増えてきたことが挙げられます。入院者の長期化、高齢化に伴う合併症や身体機能の低下を反映したものと考察されます。そして長期在院者に対しては地域生活を具体的に体験するプログラムが増えリアルオキュペイションが求められる時代となって、その担い手である我々一人ひとりの意識と実行力が試されるのではないかと考えます。さらにチーム医療の一翼を担うことも期待されていることがケースカンファレンスへの参加増に如実に表れているでしょう。具体的で詳細な変化をこの調査では得られたわけですが、調査に加われなかった施設の状況も気になるところです。

こうした情勢の中、46回全国研修会(2010)の「精神保健医療福祉の方向性とこれからの精神科作業療法」の講演において伊藤弘人氏は、今後意識する必要のあるポイントとして、1.精神科病院の作業療法において地域の中で関わっているという意識、2.慢性期医療においては期間を区切って支援のゴールを意識する、それは作業療法のプロセスを構造化する試みにもつながる、3.病識が十分でなくても、患者本人の希望や評価を意識する、という3点を挙げています。


当事者中心のアプローチ

伊藤氏は3点目について、専門家と共同で決める治療方針に従うことをアドヒアランスと言うが、アドヒアランスを高めるためにも、本人の治療への参加は今後ますます求められていくであろう。とも述べています。インフォームド・コンセントからアドヒアランスへということでしょうか。
リハビリテーションからリカバリーへということも頭をよぎります。大部以前から精神障害者をめぐる研修・研鑽は職種にこだわらず様々な団体や運営方法で開催されています。当会では研修会には必ず当事者発言の場を設け、当事者中心の理念を貫いてきていましたが、他団体でも、そのことは益々強調と広がりを持ってきています。当事者をも運営主体に加えたリカバリーフォーラムが2009年から開催され2012年で4回目、毎回1000人を超える参加者数で回を重ねる毎に増加してきています。当会でも分科会を分担するなど、関わっています。参加者数では、当事者がダントツに多く作業療法士の3倍以上とのことで、家族の方々の参加も専門職をしのぐようです。本人が実現したい生活、利用者のニーズに合ったリカバリー理念に基づいたサービスを考えていくことの重みは、このフォーラムの盛況や参加者層に見ることができるように思います。当事者を中心としたリカバリー、リハビリテーションとの違いも検討を要するのかもしれません。
当事者であるメアリー・エレンにより創始され、リカバリーに基づいたプログラム(活動)に、WRAP(元気回復行動プラン)があります。2007年の作業療法研修会でも当事者によるデモンストレーションとともに紹介されています。ピアサポート、ピアヘルパー、ピアスタッフといった言葉が普通に使われ支援現場でも当事者が働いていたり起業したりする例も出てきています。
「精神障害をもつ人たちのワーキングライフ」(IPS:チームアプローチに基づく援助付き雇用ガイド)により紹介された就労支援の方法は、やはり当事者中心の理念に基づくもので、支援方法に変革をもたらしたといえるでしょう。IPSはACTとともに日本に取り入れられた初期に、当会の研修会でも取り上げられ、その具体的実践には目からウロコ状態を味わったのを覚えています。第47回全国研修会(2011)では、草津病院のIPSへの驚くほど精力的な取り組みが報告されています。
こうした活動とも相まって、障害者自立支援法や雇用率等の障害者施策の影響もあるのでしょうか、就労支援も随分と広がりを持ってきています。法定雇用率があるからとは言え、近年大手の企業でも障害者雇用に積極的になってきており、「障害者の雇用の促進等に関する法律」においても2005年精神障害者が算定の対象にされ、また2010年の法改正により短時間労働(20時間以上30時間未満/週)の精神障害者についても0.5人分としてカウントし、実雇用率に算定できることとなりました。さらに、障害者雇用納付金制度において対象事業主の拡大がされることになり、精神障害者の就労支援に有利な状況となっています。


就労支援事業部の発足とその活動停止(2005年~2012年)

そうした中で、当会もまた就労支援に関わってきた経緯があります。この7年間は、NPO法人化に伴い社会貢献が会の目的に加えられ、公益的事業のテーマの下に創設された『就労支援事業部』の活動及びその限界の確認と活動停止に至る期間でもありましたので、それについても記しておきたいと思います。まさに、障害者自立支援法において就労支援の強化が謳われ、作業所として福祉的就労の場とされてきた支援施設が就労継続支援・就労移行支援等の制度に改まり整えられてきた流れとも並行しています。
就労支援事業部の取り組みの一環として、東京都練馬区内に障害者雇用と支援の場を創り出す目的で新たに営業を開始した「有限会社野菜カフェ・にんじん」の支援をするという形で、2005年その具体的な最初の仕事である「障害者自立支援センター“ぽた”」が同店の一隅で始まりました。その後「相談コーナー」の継続と計7回(年1回)の就労支援研修会が開催されました。「相談コーナー」では、当事者、家族、支援者等の集いで交流がもたれましたが、活動に発展性がなくその限界を理事会でも確認し、7年間の活動休止が決定されました。POTAあゆみの別冊として、「就労支援事業部・障害者自立支援センターのあゆみ」(2008年4月発行)があります。
毎回の相談コーナーのお知らせや報告、その他就労支援に係る情報提供など、隔月に発行されてきた「POTA就労支援事業部ニュースレター」は28号に及びますが、以下はその「最後の相談コーナーへのおしらせ」よりの抜粋です。


2005年(平成17年)7月、「自立支援センター『ぽた』」設立記念講演会の開催から始まり、同年10月に「野菜カフェ“にんじん”」が開店、そこを障害者雇用の拠点とするべく、翌2006年2月から相談コーナーは開始されました。“にんじん”の店を会場としての相談コーナーは毎月1回、約1年間継続されました。経営難のため閉店した後も相談コーナーだけでも続けようとの声があり、毎回場所を探し、開催頻度も2ヶ月に1度となりましたが継続して来ました。障害者が働いているところ、支援しているところの見学を兼ねることも考慮して、その時々にテーマも考えながら、最近では参加者の交流がメインとなっていましたが、今まで開始から約6年余りとなりました。拠点も無く日常的な活動が伴っていないため、参加メンバーも内容も限定的で、その継続の意味の検討を重ねてきましたが、この度、事業部の活動全体を一区切りすることとなりました。精神医療保健福祉の動向は短期入院・地域支援が重点化され変化してきており、就労支援も雇用率改正や支援機関の多様化・増加、支援方法の変化も含めて様々に拡充されてきています。相談コーナーが始まった頃とは随分違ってきています。そうした情報にも目を向けながら、上手に利用することも視野に入れて、他の支援機関に役割を委ねて、私たち一人ひとりがこれからも前向きに日々を心穏やかに暮らしていけたらと願っています。

馬場/ニュースレター:「最後の相談コーナーへのお知らせ」より抜粋
野菜カフェ「にんじん」の事業と経過はPOTA機関誌:精神科オキュペイショナルセラピーVOL.26(2007)に掲載

相談コーナー参加者間の相互関係を「POTA就労支援モデル」として、加藤和貴氏が試案を提唱しており、それについての浅海氏による評から、その活動の一端が理解してもらえればと思います。
従来の援助関係は、しばしば、「医学モデル」に象徴されるように、当事者は“(援助)される”側であり、“(援助)する側”との関係性が、縦関係としてとらえられる。これに対して、相談コーナーでのスタッフと来談者の関係性は、一見、縦関係で始まるようであるが、当事者自身が、疾病ないしは障害なるものも踏まえた上で、生活を再構築してゆく過程を支持し、強化してゆこうとする「生活モデル」と称される関係性との附合がある。しかし、その過程で、双方向に、共感と受容の関係、新たな対処の視点の提示、そのことに気づき、励まされるという過程が生じることがしばしばあって、「生活モデル」の述べる関係性では括りきれない側面(“双方向の関係性、持ちつ持たれつの関係性”)がみられる。加藤による相談コーナーの分析と位置づけの提起は、これまでとこれからを考える上で貴重なもので、全体で共有できるものへ、さらに検討を深めることが必要である。(浅海)
POTA就労支援事業部「障害者自立支援センターのあゆみ」にそのモデルの図解が掲載されている。
就労支援研修会は主に就労支援の現場を見て学ぶという形で以下のように開催されました。


2005.7 設立総会「講演と交流の集い」当事者・ご家族・雇用主・支援者など100人以上の参加者
2006.4 地域での自立支援の実際 地域生活支援センター「きらら」・野菜カフェ「にんじん」を訪問
2007.5 地域での就労支援の実際(1) パソコン工房DELTAの実践(講演)・居酒屋「庄や」訪問
2008.5 地域での就労支援の実際(2) NPO法人多摩草むらの会(東京都多摩市)訪問
2009.5 就労支援の実際 社会福祉法人JHC板橋会 「プロデュース道」「ワーキングトライ」
2010.5 うつ病の方への就労支援 ~OTにできること~(講演:岡崎渉氏/馬場温子氏・斉藤勝氏)
2011.5 働くということ 多摩棕櫚亭協会の利用者と共に考える「多摩棕櫚亭」訪問
※第3回~5回の研修会の報告はPOTA機関誌:精神科オキュペイショナルセラピーVOL.26~28の各号に掲載されています。


東日本大震災

平成23年、2011.3.11 とてつもなく大きな出来事がありました。『東日本大震災』という未曽有の災害で、私たちの仲間も多く被災し、国中が世界中も心を痛め、多かれ少なかれ全ての人の生活や人生にも、その考え方にも影響を及ぼしたのです。作業療法研修会の延期や就労支援事業部の相談コーナー中止等の対応もありました。復興のために奔走する、援助する、見守る、誰もが何か力になればと、思いを寄せました。当会でも、東日本大震災への募金活動をして、支援が届きにくい地域の小さな団体等にとの趣旨で義援金を送りました。学術調査部では東日本大震災の影響について作業療法現場にアンケートをしています。こうした社会的な問題に取り組めたことは意義深く、今後、その時々にNPO法人としての活動の在り方が問われ、また望まれることでしょう。甚大な被害とこれからへの大きな課題を残しつつも、辛い悲しみを乗り越えて、人々は様々な営みを継続しています。


国の動きと管理運営研修会

2009年に政権交代がありましたが、民主党政権はその間に東日本大震災もあり、首相が3人交代するという中で、2012年末に3年余りで終わりました。その間の国の動きで精神障害領域に関することとしては、前述の障害者雇用促進法の改正と2011年医療計画の中に精神疾患を追加し、地域医療の必須要素を『5疾病5事業』としたことが挙げられます。そして、2012年6月には「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」が成立し、障害者自立支援法が「障害者総合支援法」となりました。また、同時期に厚生労働省は精神科特例を見直し、急性期の患者に対して一般病床と同等に引き上げることを打ち出しました。質の高い入院医療の提供、退院支援の充実、アウトリーチ(訪問支援)など入院外医療の推進を柱として、早期の治療を充実させ、重症患者を除いて1年以内の退院をめざすというものです。急性期の看護職員の配置基準の中に作業療法士も含まれていくということも出されてきました。
これらの転換を視野に入れた様々な変化に注目し、私たちの現場でも、その特徴や強みを明確にして根拠をもって説明できるような体制作りが求められて来るのではないでしょうか。今後も常に、私たちの働き方に影響を及ぼす国の施策や精神医療保健福祉の動向には、目を配らせてていく必要があるでしょう。そうした意味でも管理運営研修会の意義は大きいと思います。臨床現場で作業療法を担っているのは若手ばかりでなく中堅・管理職にある者も増えてきているとの判断から、研修対象を中堅・管理職の立場にある者に絞った「管理運営研修会」を2008(平成20)年から開催してきています。POTA理事側から精神保健医療福祉の情勢や現場報告をして、参加者間で質疑討論する形で継続してきており第5回までを数えますが、この間「精神科医療の方向性と各種制度」「病院経営者との交渉方法」「部門管理者のための心理学」といったテーマを設けて開催されています。


これからへの課題と期待

作業療法現場の管理運営にも関わり、サービスの中心ともなっていく私たち、国の法律や制度も見据え、当事者中心のアプローチを念頭に、治療技法の研鑽にも飽くことなく、病院からの地域移行や地域生活支援、就労支援などその領域は拡がり、求められるものも大きく重くなっていく。でもそれらは職種も越えた仲間と共に、頭を寄せ合い力を合わせて担っていくものだと思います。
ACTなど地域精神保健の分野では「超職種」ということが提唱されています。多職種によるチーム支援は、当事者を核として職種を超えてニーズに対応していくことが強調され、チームの在り方を考えさせられます。学術調査部のアンケート結果にもあったように、病院内でもカンファレンスへの参加が当たり前となり、その回数も増えてくる中で、チームアプローチは否が上でも重要で、これからの課題でしょう。超職種は当会の在り方にも示唆を与えられるものではないでしょうか。
2012年には新旧理事の交代もあり、ニュースには海外からのレポートも掲載される時代となりました。新しい時代に向かって、会員の知恵や情熱で、常に私たちがどうするのか、何にどう関わるのかを問い続けていって欲しいと思います。2011年11月、初めての試みとして『タウンミーティング』が「しゃべリハ」と題して山形市で開催されました。POTAスタッフと地域会員、もちろん非会員も歓迎の交流会でした。こうした新鮮な企画やユニークな活動の在り方が、今までの歩みの上に積み重ねられ、歴史の味わいとなっていくのでしょう。これからのあゆみに自分自身も含めて、皆に、皆で期待しましょう。


文責:馬場温子 2013